二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 鎖の少女 (ボーカロイド) ( No.177 )
日時: 2011/01/05 19:11
名前: ミズキュウラ・ドラッテ (ID: AKehFwYl)

 夜が昼を追い立てるから、足場が見えない。
 ユリは言っていた。
 初めて会ったあの場所で待っていると。
 確か…路地のはずれだった筈。
 ここからはそんなに遠くはない。
 ティファニーは全速力で走った。
 誰にも捕まりたくない。皆同情ばかりで気が滅入るだけ。
 だったら笑って「友達だ」と言ってくれた、着飾る言葉など不要のあの人たちに一刻でも早く会いたい。
 ティファニーは知らずに過去の記憶の蓋を自分で開けた。


 あれは…母が死ぬ数日前の思い出。
 家族水入らずでピクニックにと一番高い丘にあがった。
 快晴で、私の心は跳ねるばかり…。
 もう今この瞬間が私にとってのすべてだった。
 何も要らない。私と両親以外誰も要らない。
 鳥たちだって私たちを祝福してくれる。
 幼かった私は小さなお出かけに全力投球だった。
 こんな日がずっと続くのだと思っていたから。
 終わりなどないと頑なに信じてたから。
 …無邪気は罪だった。
 そう。…母を殺したのは私。
 動機なんて無い。ちょっとした過ちとすれ違い。
 …気付いたら全身血塗れだった。
 母の返り血を浴びて、動けずにいた。
 



 やっと判ったよ…。
 私が父さんを恐れていたんじゃない。
 父さんが私を恐れていたんだ。
 身内を殺して他人事みたいに泣いていた私。
 数年経てばころっと忘れて。
 そんな私を…父さんはどうしようもない恐怖で戦慄に身を震わせてたんだ。
 だから…自分を偽って…大事だと言っていた自慢だと言っていた娘に手を挙げた。
 あんなにやさしかった父さんを変貌させたのは他でもない…私。
 今わかったよ。
 私…独りなんだね。
 涙が枯れたわけじゃない。
 人である心を亡くしたんだ。
 どうして…気付かなかったんだろう。
 どうして…今気付いたんだろう。
 全て遅すぎた。
 私を知っている人はもう…いない。






 今頃になって涙があふれ出す。
 前がぼやけて道がわからない。
 動機が速いのは走ってる所為かそれとも————