二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 忘れな草【イナズマ短編】リク受 ( No.48 )
日時: 2011/04/18 19:01
名前: しずく ◆snOmi.Vpfo (ID: 2.TlWg7X)

 ようやく黒が戻ってきた頃、癒玖刃はゆっくりと目を開けた。すると目の前に南雲の顔があって驚いた。何やら頬をほんのり赤く染め、やけに荒い息を吐いている。
 わけが分からずぼんやりしていると、南雲は癒玖刃に両腕を伸ばした。癒玖刃の身体に手を回すと、そのまま自分のほうに抱き寄せる。南雲が自分を抱きしめようとしていることに気づいた癒玖刃は抵抗した。が、男である南雲の力には敵わない。南雲の腕の中に収められてしまった。

「……オレ、お前のことが好きだ」

 ほとんど離れていない南雲の口から、熱い息。甘いささやき声。耳をくすぐる立て続けに放たれた二つの攻撃に癒玖刃は混乱する。好き? え、何かの間違いですよね? なんて自問も虚しく、第三の攻撃がまたやってくる。

「いつも喧嘩ばっかりしていたどな、オレお前に構ってほしかったんだぜ?」

 抱きしめる力をいっそう強め、黒髪を撫でながらそんなことを言い放つ南雲。
 気持ち悪い、そしてこいつは誰だ。不快感と疑問が脳内で交錯するが、このまま考えてばかりだと身が持たない。もう身体は悲鳴を上げてばかりだ。鳥肌が立ち、意識を失いたいくらいの羞恥心がこみ上げてきている。

「南雲、離れろ! 離れろ! つか、どけ! 風介助けてー!」

 癒玖刃は逃げ出そうともがきながら、涼野に助けを求めると、

「にゃあ」

 猫の鳴き声が答えた。
 反射的に足元を見ると、猫が居た。小柄で体毛は涼野の髪のような銀色。けづやはかなりいい。窓から差し込む光で輝いているように見える。瞳は、これまた涼野と同じ青緑の瞳。青緑の双眸がまっすぐ癒玖刃を見上げていた。
 冷たそうな面持ち。この毛の色と瞳。まさか——

「風介、ですか?」

「にゃあ」

 ありえないという声音で癒玖刃が尋ねると、猫は肯定するように鳴いた。「助けて」と呟くように助けを求めるが、猫となった涼野は「にゃあ」と無感情に鳴くだけだ。自分には関係ないと言わんばかりに長い尻尾を左に右に振りながら、のんきにこちらを見続けている。涼野がダメなら、と癒玖刃は残った二人の姿を探した。
 ドアの近くに向かい合うアフロディと蓮が居た。二人を見つけると、藁にすがる思いで叫んだ。

「アフロディに蓮! 誰でもいいからこいつを剥がして! 気絶させてでもいいから!」

 息が首にかかるわ甘い言葉をささやくや。もはや我慢の限界だ。このまま気絶したい。
 と、声が聞こえたのか二人が同時に癒玖刃の方に顔を向ける。そして、アフロディが口を開く。

「無理よ、癒玖刃ちゃん」

 女めいた高い声と口調。アフロディはもっと声が低い。そして目に頼りなさがない。
 ——気弱な女の子。そんな表現が即座に頭に浮かんだ。アフロディも薬にやられ、女の子になったらしい。演技にしては上手すぎる。癒玖刃は身体全身をいかづちが駆け抜けた気分になった。
 南雲、涼野、アフロディの変貌ぶりに言葉が出てこなかった。薬のせいだ。だけど元に戻す方法は知らない。
 呆然とする癒玖刃の前で、アフロディは目を閉じ、顎の下で手を組んで首を振る。

「私は女の子だから……そんな乱暴なことは出来ないわ」

 目を開けたアフロディは瞳を潤ませながら、「お願いよ」とお願いするように首を傾げる。あまりの可愛さに癒玖刃は危うく首を縦に振りそうになったが、我に戻った。ダメだ。アフロディも見捨てることにした癒玖刃は、最後に残った蓮に目をやる。
 癒玖刃と目が合うと、蓮はにこりと微笑んだ。顔付きといい、見た目といい変わった箇所はなそうだ。癒玖刃は安心して、蓮に助けを請う。

「蓮、こいつどうにかして」

 親指で南雲を指差すと、蓮は笑みを浮かべた。

「僕に命令するな、癒玖刃」

 彼らしくない冷たい口調が飛び出した。驚愕して癒玖刃が目を開けると、

「女から命令を受ける主義じゃないんだ。じゃあな子猫ちゃん。彼氏と仲良くね」

 蓮は前髪を軽く払い、意味不明な台詞を並べ、片手を挙げた。部屋から出て行こうとする。
 癒玖刃は頭の中で素早く計算した。猫と気弱な女とキザ野郎。この中で一番南雲を倒せそうなのは誰か。答えはもう決まっている。

「れ、蓮! 助けろ、いえ助けてください!」

 癒玖刃は身をよじりながら、遠ざかる蓮の背中に呼びかけた。すると蓮は急に呻きだし、頭を抱えた。しばらくすると頭から手を離し、辺りを窺い始める。

「あれ、僕何してたんだっけ?」

「蓮、助けて!」

 どうやら正気に戻ったらしい蓮に呼びかけると、蓮は振り向く。悲鳴に近い声をあげ、南雲に駆け寄る。南雲の腰に手を回し、癒玖刃の身体から南雲を剥ぎ取ろうと試み始める。

「晴矢! キミ、いつから癒玖刃ちゃんと抱きつく関係になったんだよ!? キミらしくないよっ!」

 蓮は、必死な声で南雲に話しかけながら引っ張っている。やはり男であるからか、南雲の身体が離れかかっている。南雲は離れまいと癒玖刃にしがみつく。

「蓮、邪魔をするな。オレは——っ」

 急に南雲もうめき声を漏らし、頭を抱えた。癒玖刃はその隙に脱出した。身体のあちこちに南雲の体温が残っていて不快だ。今すぐに着替えたい気分だが、男が四人も居ては着替えられない。
 蓮が不安げに南雲の身体から手を外すと、南雲は痛みで顔をしかめながら、蓮の方を振り向いた。

「……蓮、今オレの名前を呼んだか?」

「あ〜よかった」

 蓮はほっと安堵のため息を漏らす。

「癒玖刃ちゃんに抱きつくんだもん。びっくりしたよ」

「蓮、頭が狂ったか? オレがあんな女に抱きつくわけないだろ」

 南雲が笑い飛ばすと、蓮は「本当だったんだよ」と念を押すように言った。薬の効力で、本人の記憶はなくなるようだ。
 ああ——ひどい目に遭ったと心の内で嘆きながら、どたばたが去ったことを喜ばしく思っていると。

「にゃあ」

「……れ、蓮君。南雲君」


 猫の鳴き声ともじもしする少女、アフロディ。

「風介ー! アフロディ!」

「お前らどうしちまったんだよ!」

 まだ終わっていなかった。

〜FIN〜
しずくさん大好物の色々な意味で超次元小説ですw
待たせた上にこの駄文クオリティで面目ないです。韓国組と蓮は書いていてとてもenjoyでしましたww
よければ、近いうちに感想をお聞かせ願います。リク、ありがとうございました^^