二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 忘れな草【イナズマ短編】リク受付中♪ ( No.67 )
日時: 2011/05/07 18:57
名前: しずく ◆snOmi.Vpfo (ID: PODBTIS5)
参照: 蓮の一人称?

「……おい」

 暗闇の中、声が聞こえる。
 僕は眠っているようだ。プールで感じる水に浮くような快感。暖かさが肌に纏わりついている。心地よい温度で、頭の芯から麻痺しているようだ。目を開けるのが億劫に思えてきた。ああ、もうちょっとだけでいいから寝かさせて欲しい……と、僕は快感に負けてしまう。これだから小学校時代はよく遅刻していたわけだが、それは今も同じらしいと悲しくなってくる。

「おい、起きろ!」

 声がさっきよりも強くなった。同時に右頬の辺りから肌を叩かれる音がし、頬がひりひりし始める。おかげで心地よい快感は、どこかへ消え去り、頭が冴えてきた。肌を叩かれて痛い。叩かれる音も目覚まし時計のような役割を果たしている。
 そこまで僕を起こしたい声の主の要求に答えることとし、目を開けた。視界にうっすらと見える色は——空の青だった。え? 僕はいつもと同じように寝たはずなのに、なんで空の青が映りこんでいるんだ? 空の青に続き、だんだんと輪郭や髪の色がはっきりとしてくる。晴矢と風介が、心配そうに僕を覗き込んでいた。何故かファイアードラゴンのユニフォーム姿。

「ったく、ようやく起きたか」

 晴矢が呆れたようにため息をつき、僕は上半身を起こした。左腕と右腕から何かが音を立てて落ちていく。それは腕についた砂だ。ユニフォームに覆われていない肌についていたらしく、肌が砂で白っぽくなっている。ついでに周りを見渡すと、宿舎のグラウンドだった。離れたところで、アフロディたちが練習を行っている。ボールが空高く舞い上がっていた。……どうやら、僕は宿舎の脇で倒れていたらしい。寝たと思ったのは僕の記憶違いだったのだろう。
 立ち上がり、手とハーフパンツについた砂を手で払うと、僕は晴矢と風介に向き直る。

「あはは、少し眠かったから」

 冗談めかして笑うと、晴矢と風介の顔に呆れの色がますます濃くなる。その態度に僕は海の砂を噛んだような——不快感を覚えた。いつもならバカじゃねえか? とかもっと寝たらどうだ? とか。からかう様な反応を見せてくれるのに、今日の二人は親しくないファイアードラゴンの選手に見せるような反応をしていた。

「寝不足か、白鳥? 身体は大事にしろよ」

 え? 晴矢は今なんと言った? 白鳥。そう呼ばれたことに僕は、ただただ驚いた。からかっているんだろうと思い、晴矢をわざと苗字で読んでやる。

「南雲、気遣いありがとう」

 すると、晴矢は当然そうに笑った。僕が苗字呼びしていることも大して気にしていないようだ。反射的に風介に視線を向けると、風介がグラウンドを指差した。

「白鳥、早く練習に戻るぞ。パサーであるキミが抜けると、私たちはシュートを決められなくなる」

「……あ。う、うん」

 戸惑いがちに頷くと、晴矢と風介は先立ってグラウンドに走っていった。僕も後を追うが、頭の中は一つの疑問が占めていた。
 急に僕のことを苗字で呼ぶようになった晴矢と風介。親しさがない晴矢と風介。おかしい。何故だか分からない。昨日の晩もいつも通りトランプをし、はしゃいで寝たのに。それがどうして、たった一日で掌を返すように態度が変わるのだろう。どうしてもわからなかった。まるで言葉が通じない外国に放り込まれたような——孤独と絶望が胸中で渦巻いていた。

〜つづく〜