二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: [銀魂]   |_ くるりくるり。|  ( No.127 )
日時: 2011/06/18 10:13
名前: 李逗 ◆hrygmIH/Ao (ID: .qxzdl5h)
参照: サブタイトル(お題)提供/ひふみ。様

第十一話   龍の背に乗るかぐや姫


「本当に良かった……!!」

そう言って、松陽は更に強く凪を抱き締めた。まるでその存在を確かめるように。一方凪は、声を出す事も松陽を突き放す事も出来ずにいた。驚きの為なのか何故なのか、自分でも解らない。
普段なら、抱き締められた瞬間突き飛ばしていただろう。そうしないと危険であるから。だけど、今日は。

「今まで一体何処にいたんですか!?」
「……ずっと、ここに」

一言一言、絞り出すように言葉を紡ぐ。それを言い終えると、松陽の腕の力がほんの少し緩まった。

「心配したんですよ」

大きく目を見開いた事に、自分でも気が付いた。


今までずっと一人だった。家族を失くしてからずっと。
村から物を勝手に盗んだし、戦場で屍の身ぐるみを剥いで生きてきた。
死なない為に、自分へ敵意を向けるものは容赦無く殺した。はじめのうちこそそれに抵抗していたが、少しすればそんなものは消えて無くなってしまう。


沈みゆく太陽を見た時、もういいと思ったのだ。
人間の身でありながら化け物と呼ばれた自分など消えてしまえばいいと、心の底から思ったのだ。
あの温かな、遠いいつかの日と同じ温もりを持つあの場所に居てはいけないと、そう思ったのだ。
そう思えたのに、決心がついたのに、何故。

どうして、自分に笑顔を向ける。
どうして、自分を心配する。
どうして、こんな風に抱き締める。
どうして、

どうしてこんなに温かい。

「ふ……」

髪を撫でられた瞬間、ぼろりと瞳から何かが零れ落ちた。長い事流していなかったそれ。たった一度、たった一粒流れてしまえば、後は壊れたからくり人形の様にぼろぼろと瞳から流れ落ちてきて、凪の視界はあっという間に霞んでしまった。
涙を流すなど、一体何時ぶりだろうか。最期に泣いたのはきっと、妹と逸れてどうしても探し出せなかった時の事だ。それ以来流れていなかった分を今このとき流すように、涙はいつまでも止まってくれない。

「っ、うぁぁあぁっ」

嗚咽を上げて泣く凪を、松陽はいつまでもそのまま抱き締めていた。





「すっかり暗くなってしまいましたねぇ」

真っ暗な夜道を並んで歩く人影が三つ。いや、正確には四つ。一番大きな人影——松陽は、その背に凪を負ぶっていた。その右隣に銀時が、左隣には晋助と小太郎が、それぞれ松陽の歩みに併せてゆっくり進んでいる。

「晋助と小太郎は家まで送って行きますからね」

松陽が言うと、二人はこくりと頷いた。かれこれ一時以上凪と探して歩き回っていたのだから、きっと疲れているのだろう。当の本人である凪は、松陽の背ですやすやと気持ち良さそうに眠っている。マイペースな子だと思いながらも、背中に感じる温かさと重みに安心した。

「せんせー」

ふいに銀時に呼びかけられ、松陽はそちらを向く。銀時は夜空を見上げていた。

「帰ったら餅食いてぇ」
「お餅、ですか?」

何故急にそんな事を、と思い銀時と同じく空を見上げてみれば、それはすぐに理解できた。雲一つ無い夜空に散りばめられた星と、餅突く兎。
今夜は満月だった。

「かぐや姫が月に帰った日も、きっとこんな夜だったんでしょうね」

遠い遠い、遠い昔の物語。竹から生まれたかぐや姫は、満月の夜に月の国へと帰って行った。

背中に乗る小さな少女は、生まれたばかりのかぐや姫。
きっとこれから沢山の喜びと幸福と、沢山の悲しみを知って、大人になってゆくのだろう。

この三人の少年と一緒に。



龍の背に乗るかぐや姫
(ただいま、お帰り、ありがとう)