二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: *小さな初恋* 【イナズマイレブン】 ( No.107 )
- 日時: 2011/03/12 18:55
- 名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: uXqk6hqo)
第四十二話【貴方もきっと、私と一緒なの】
ボーン、と懐かしい鐘の音がした。実際に聞いたのは初めてだけど、やはり日本人だからなのかしら、懐かしく感じる。いや、もしかしたら、目の前に広がる平和な風景が私をそうさせているのかもしれない。
「襲撃予告が来たっていうのに……」
「なんだか、平和っスね」
着物のデザインを基調としている制服。漫遊寺中は、ここのはずなんだけど……危機感がまったく無い。むしろ、平和一色だ。穏やかな雰囲気が辺りに流れている。私が言うのもなんだけど、おっとりしすぎな気が。
さっそくサッカー部を探す。が、なにせ初めて訪れる学校。行き方も何もあったものじゃない。誰か案内してくれないかな、なんて甘えた考えが浮かぶ。が、そうしなくてもいいみたい。
「ここをまっすぐ行ったところに、サッカー部の部室があるんだそうだよ。そうだよね、きみたち」
「はい! 看板があるのでわかると思います!」
「また、何かあったら頼むよ?」
女の子たちから黄色い歓声があがった。さすが士郎、と思う前に変な気持ちが私を独占する。あんなにニコニコしちゃって……あれ、私、妬いてるのかな? ……変なの。こんなの、昔と一緒なのに。
あんまり怖い顔をしていたらしく、秋さんに大丈夫? と声を掛けられてしまった。一応笑い返したけれど、ぎこちない笑顔だったと思う。う〜ん、どうしたんだろう? 私。
*。+
和風の校内を進んでいく。日本庭園と木で出来た廊下を初めて見た私は、さっきのことなどすっかり忘れていて。一歩、また一歩進むごとに軋む廊下が、面白くて仕方が無かった。
「なあ、春崎。廊下がそんなに楽しいか?」
「え……? だって、"木"で出来た和風の廊下ですよ? 珍しいじゃないですか」
後ろを見ながら歩いていた風丸さん。円堂さんの顔を見ると、なぜかキョトンとしていた。心なしか皆の顔も苦笑気味。あれ? 皆さん、木で出来た廊下なんて珍しくないのかな?
「そ、それに日本庭園ですよ? 砂利がひいてあるなんて、初めて知りました」
「……確かに日本庭園は綺麗だけど、砂利がひいてあるのは珍しくな————」
言葉は途絶え、円堂さんの叫び声に変わる。続いて何人も姿が消え、気付くと廊下に寝転がっていた。目金さんは壁山くんの下敷きになっており、重い重い、と悲痛な叫びを上げている。呆気に取られる雷門イレブン。どうやら、円堂さんは足を滑らせたらしい。けれども、不思議なことに廊下は、そこだけしか光っていなかった。この輝きは、ワックスだと思う。どう対応して良いかわからず、ただただ呆然としていると、ウッシッシという奇妙な笑い声が聞こえてきた。ふと視線を移すと、そこにいたのは小さな男の子。多分、中学一年生くらいだろう。転んだ皆さんを見て、憎らしいほどに悪戯っぽく、笑い続けていた。
「ウッシッシ! FFで優勝したからって、調子に乗るなよ!」
「おまえ……何するんだよっ!」
策を飛び越え、その少年のもとに突っこんでいく塔子さん。が、途中で姿が消えた。同時に聞こえてきたのは、塔子さんの叫び声と土ぼこり。えっと、ああいう仕組みを何て言うんだっけ? ……あ、そうそう。落とし穴だ。本物、初めて見た気がする。落とし穴も、日本の和の心なのかな?
「あっ……大丈夫ですか!?」
漫遊寺中の人と見られる少年の声が聞こえ、はっと我に返った。気付くと、あの小さい少年の姿は無く。塔子さんは、引きずり出されていた。奇妙なポーズをして、塔子さんに謝る少年。続いてこちらを向くと、また怪しいポーズを見せ、深々と一礼をした。
「申し訳御座いません……うちの部員が大変失礼なことを」
「平気ですよ! それより、さっきのヤツは……?」
「あやつは、我がサッカー部の部員です。何度も注意しているのですが、悪戯ばかりしていて……」
あの子もサッカー、やってるんだ。円堂さんも同じように感じたらしく、驚いたような顔をしている。目金くんに言わせれば、同じサッカーをする者として恥ずかしい、らしい。私には、壁山くんに肩を揉ませる目金くんのほうが、よっぽど恥ずかしいと思うけど。
「木暮は、周りの者を全て、敵だと思っているのです。それはきっと……——あやつが親に捨てられたから、なのでしょう」
少年の言葉に、動揺を隠せない雷門イレブン。私には、鬼道さんと春奈さんがお互いに目配せした瞬間が、くっきりと見えてしまった。そっか、ご両親がいないのか。そう、まるで……士郎と一緒。そして、幼き頃の"あの少女"と同じ。似たような立場だからこそ、辛さや寂しさは、少しばかり理解できる。
冷たい現実は、そのまましばらく、私たちを動揺させ続けていた。