二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: *小さな初恋* 【イナズマイレブン】 ( No.130 )
- 日時: 2011/03/21 17:56
- 名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: G1Gu4SBX)
第四十六話【涙色の記憶】
明々とした月が二人の横顔を照らし出し、闇色の影を落とす。そんな、しんみりとした雰囲気の中。二人が話を切り出せるはずがない。当たり前だよね。ついさっきまで喧嘩をしてたんだから。それに木暮くんに関してはもっと複雑だし。人を信じられない彼が、初対面の私たちに、そう簡単に心を開いてくれるとは思ってない。静寂の波紋が広がるなか、最初に口を開いたのは、春奈さんだった。
「私のお父さんとお母さん、事故に遭って亡くなったんです」
この事実には、心底驚かされた。木暮くんも同じ心境らしく、目を見開き、口をあんぐりと開けていた。そしてすぐにプイッとそっぽを向いてしまう。彼は本当に素直じゃない。
けど、もっと驚いた事実は、鬼道くんと春奈さんが実の兄弟だってこと。前々から仲良しだなぁとは思っていたけど、まさか兄妹だったなんて。思わず聞き返してしまったほどだ。春奈さんの両親は飛行機の事故に巻き込まれてしまったらしい。そして残された二人は施設に預けられ、別々の家に引き取られた……。最初は色々とあったみたいだけど、今は仲良く接していられるみたい。鬼道くんが他のマネージャーさんよりも春奈さんに優しく接していたのは、そういう理由があったからなんだ。
「だから私、木暮くんの気持ち、少しならわかるよ」
「……あんたは?」
優しく微笑まれることに免疫が無いのか、儚げに笑った春奈さんから私に視線をずらすと、仏頂面のまま木暮くんは、私に言葉を投げかけた。
私は、か。残念ながら私は、幸せな家庭の子供にはなれなかった。……いや、途中まではそうだったのだ。皆さんが思い浮かべる"幸せな家庭"とは何なのだろう? 優しい両親? 愛を注がれた子供? 今でも笑顔が絶えない毎日? それならば、本当に残念ながら私は、胸を張って答えることができない。子供に絶対に必要な存在が、欠けてしまっているから。
「そうですね……、私のお母様は小さい頃、病気で亡くなりました」
本当にいきなりだったんです。自虐的な笑みが漏れるのも気にせず、私は淡々と話を続ける。
私は、二人より恵まれているとも、不幸だとも思わない。失った命の数で、他人の幸せを計れるとは思えない。それにね。今、笑顔溢れる生活を送れているのだから、私は自分を可哀想だとは思わないの。同情なども無必要。
「お父様は……お母様と同じように、ある日突然、姿を消しました。亡くなったわけではありません。朝、起きたら、忽然といなくなっていたのです。何の前触れもなく、ただ、静かに。そうですね……木暮くんが言うところの"捨てられた"ということでしょう」
私は、二人より恵まれているとも、不幸だとも思わない。失った命の数で、他人の幸せを計れるとは思えない。それにね。今、笑顔溢れる生活を送れているのだから、私は自分を可哀想だとは思わないの。同情なども無必要。
——だけど。
この告白をしたあとに私に投げかけられる、哀れみの含まれた冷たい視線に私は未だ、恐怖心を忘れることができなくて。