二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: *小さな初恋* 【イナズマイレブン】 ( No.135 )
日時: 2011/03/25 18:40
名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: aBT3sVDq)





    第四十七話【少女は一歩を踏み出した】

 知らず知らずのうちに握り締められた拳。汗がにじんできた右手を尚、強く握った。カタカタと震え始める体を制御することができず、仕方なく俯き、誤魔化した。恐らく、隠しきれてはいないのだろうけど。それでも、ただ野放しに感情を露わにするよりは、断然マシだった。

「なぜ"捨てられた"のか、幼い私に理由はよくわからなくて。けれど一つだけ、足りない頭の私でも明確にわかったことがありました」

 声色が震えてしまっている。私は何を怖がっているのだろう。鳥肌がたった腕を見て、ふと考え込むがそんなのどうでも良かった。話しきってしまおう。よくわからないけど、脳がそう命令を出す。
 きっと、この二人に打ち明けることができたなら、私は一歩、先へ進めるはずなのだ。過去に囚われているような、弱くてひどくちっぽけな私から。小さな進歩かもしれないけれど、それでも進歩は進歩だ。春奈さんと木暮くんなら、他の皆さんよりも理解してくれそうな気がする。何の根拠も無いけれど、話してくれた春奈さんのように、私は吹っ切らないといけないのだ。"孤独"の二文字に縛られ続けた過去の記憶から。

「お父様が私を置いて……突然、家を出て行ったのは……————」

 心臓がばくばくと疼く。呼吸さえも息苦しくなってきて、一度大きく深呼吸をした。そこで初めて二人の顔を見る。その表情は、どこか哀しそうで、寂しそうで。驚愕の色も、少なからず浮かんでいた。
 さあ、言うんだ私。イナズマキャラバンの全員に打ち明けろと言っているわけでは無いのだから。同情の視線が、幾つも幾つも突き刺さるわけではないのだから。家庭の事情を話してくれた春奈さんの為にも、木暮の心を少しでも理解できるようになる為にも。結果を話せばいいのだ、この口で。たった四秒弱の作業だ。躊躇う必要がどこにある? ここでやめたら、私は何も変わらない。これは一つの——スタートだ。
 もう一度、すぅと息を吸い込む。弱くしつこい私の心が、ようやく決意を固めた。


「————私が邪魔だったから、なんですよ」


 自嘲的な笑みを堪えることはできず、私は素直に告白した。たったこれだけなのに動悸が治まらない。私は一つ、自分で作り上げた壁を乗り切ったというのに。
 沈黙が止まぬ三人を包み込みながら、長い夜は、気付かぬうちに更けていく。妙に赤い三日月が、にんまりと微笑みながら、今にも泣きそうな少女を見つめていた。