二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: *小さな初恋* 【イナズマイレブン】 ( No.149 )
- 日時: 2011/04/04 16:11
- 名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: Ph3KMvOd)
- 参照: 「人の瞳には、見えないほうが幸せな事実さえ映るのさ」
第五十話【降ってきた影に】
練習に混じった途端、さっそく円堂くんに捕まる私。きらきらの瞳で勝負を申し込まれたけれど、私はMF。しかも、どちらかと言えば守りのほうが得意なので、難しい言葉をつらつら並べて円堂くんをかわした。熱血漢、円堂くんをかわした私は珍しいらしく、風丸くんに感心される私。
うーん、円堂くんって何者なんだろう……?
「じゃあ桃花はさ、なんでシュートを覚えたんだ?」
「あぁ、それは……」
円堂くんの素朴な疑問に、私は思考を巡らせる。あれは、いつのことだったか。薄れ掛けた記憶から、あの状況を思い出すのは大変だったけど、わりと早く思い出すことができた。
幼馴染と父親の影響で、女ながらにサッカーを始めた私。好きだとは言え、体力がつけばいいかなぁと思い始めたので、幼馴染についていくのが精一杯だった。父親のポジションはMFだったから、と言う理由でMFとしての技を磨いていった。勿論、FWしかシュートを決めてはいけないというルールは無い。それ故、MFがシュート技を覚えても可笑しくないけど、私は守るほうが得意だった。新しいシュート技にチャレンジするよりも、私のサッカーを磨いていきたい。それが私の意志だから。
でもある日、私は同じジュニアチームのFW……男の子に、喧嘩を売られたらしい。私からすれば、勝手に騒いでいるだけだったんだけど、周りがそう言っていたから、ね。その子はいつもベンチで、自尊心ばかりが高かった。努力もしていないくせに。私の幼馴染みたいに、泥まみれにもならないで僻んでいたのだ。女の私を。正確に言い直せば、士郎とアツヤを。その感情がそのうち、レギュラーとなっていた私に向いたらしい。
「……それで、シュート勝負を申し込まれたんです。負けないで、なんて応援されちゃったので練習を重ねていたら、」
「ある日突然、完成しちゃったんだよね」
わかっているのか、わかっていないのか。円堂くんは曖昧な言葉を返すと、ゴールまで走っていき、士郎にシュートを求める。パス練習にでも混ぜてもらおうかな? そう思い、鬼道くんや一之瀬くんのもとに目をやると、染岡さんの姿があった。うーん、どうしてだろう? 染岡くんに対してだけ、"さん付け"や"敬語"が抜けないのは。
「よ〜し、特訓頑張ろうぜ!」
円堂さんの一声で、雷門イレブンのやる気は頂点に達する。私も、微力ながら頑張らないと。左手に拳を作り、「よしっ」とやる気スイッチを入れると、駆け出した。
……が、
「え……」
地面を揺るがすような爆発音が、静かな京の都に響き渡る。鳥達が群れを成して空へと逃げていく。どうやら、漫遊寺中のほうで何かがあったらしい。この場所にまで、人々のどよめきの声が届いたのだから、大事なのだろう。呆然と立ちつくしている私たちを、正気に戻してくれたのは、
「皆、行くわよ」
いつでも冷静な瞳子さんだった。足元に転がって来たサッカーボール。片付けは後にしよう。いそいそと皆さんの後を追う。
が、弾かれたように体は立ち止まってしまった。モノクロの、薄汚れたサッカーボール。もしも、黒いサッカーボールが、この地響きの原因だとしたら? その可能性は、充分に有り得る。心の覚悟を決めなくてはならない。
「……勝たなくちゃ、ダメなんだよね」
エイリア学園が地球を襲う目的は、何なのだろう。それさえわからずに、戦わなくてはいけないのか。
「桃花さぁーん! 行っちゃいますよー!」
春奈さんに呼ばれ、私は止まっていた足を前へと進めた。
*。+*。+
「雷門イレブン……————お前達が後悔するのは、目に見えている」
黒い影がにんまりと、漫遊寺中の校庭で微笑んだことを、私たちはまだ知らない。知らなくてもいいことに、私は一歩、足を踏み入れたと言うのですか? もし、そうならば。私の人生は、"後悔"という闇に塗りつぶされてしまうのだろう。だけど、それでも良いよ。
————彼がまた、心から笑ってくれるなら。