二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- *その2* ( No.158 )
- 日時: 2011/04/15 12:23
- 名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: l6KRDtx2)
- 参照: 四月六日は士郎の日!
駆け回る召使達とは一変、ゆったりとした歩調で歩く鬼道。面積は、他の国に比べたら小さいが、城は本当に大きい。しかも、内装は選りすぐりの名士を集めたのだ。美しくないはずがない。まるで城そのものがアンティークのようだ。建築物評論家は、口をそろえて城を褒める。王の手前、嘘でも言わなければならないのだろうが。それでも、建築物に詳しくない鬼道まで美しいと思わせるのだから、大したものだ。
「鬼道、ちょっといいか」
後ろから名前を呼ばれ、鬼道は反射的に振り返る。そこにいたのは、白髪を立たせ、黒い切れ長の凛々しい瞳を持つ若者だった。城に仕える召使であり、同時に医師である少年、豪炎寺修也は、"無"に近い顔を珍しく歪ませ、腕を体の前で組んでいる。どうやら、困り事があるらしい。
困っている人間を放置しておけるほど、鬼道は悪人ではない。関わらないほうが良い、と脳が危険信号を発するが、気付けば豪炎寺はすぐ傍にまで来ていた。
「何だ、豪炎寺。俺は忙しいのだが———」
「桃花の姿がない。見かけなかったか?」
鬼道の最後の抵抗虚しく、言葉を無理に遮った豪炎寺は困り顔を見せる。
「お前……姫を呼び捨てするのは、いい加減やめたらどうだ」
豪炎寺の問いに答えるよりも先に、鬼道は豪炎寺の態度を治そうと言葉をかけた。この男、豪炎寺修也は国一番の命知らずだ。いくら教育が遅れている田舎の子供だって、姫を呼び捨てになどしない。にも関わらず、本人の前で堂々と呼んでいるのは、コイツだけであろう。鬼道としては、円堂に首を刎ねられる前にと、何度も注意しているのだが全く効果が見られない。たまに、王に対しても失礼な時があるので、さすがにその時はフォローに回るが。
彼の言い分は、「桃花に直接、呼び捨てにしてほしいと頼まれたから」らしい。しかし、目下の身分に対し緊張を解くような言葉をかけるのは、貴族、王室の身分に有る者のマナーだ。幾度と無く言い聞かせているものの、それでも彼は言い続ける。何度目かわからない溜め息を零すと、鬼道は本題へと戻る事にした。
「この時間は勉強しているはず……勉強部屋にいないのか?」
「そこにいないから、城中を探しているんだ」
苛立ちの含まれた返事が返ってくる。それもそうだ、と自分に言い聞かせる鬼道に対し、豪炎寺の苛立ちは益々募っていくばかりだ。怒り気味に、そして不安そうに柱時計を眺めている。顎に手を置き、しばらく考えていた二人だが、ようやく答えを見つけたらしい。居心地の悪い沈黙は、瞬く間に吹き飛んでいった。
「たしか、ヴァイオリンが持ち出されていたな……」
「俺の予想が正しければ、姫は今頃———」
駆け出した豪炎寺の背中を送り出す。恐らく、豪炎寺もわかっただろう。が、廊下の角を曲がった辺りで豪炎寺に再度、呼ばれる。どうやら鬼道までもが巻き込まれたらしい。重苦しい溜め息を吐き出すと、愛用のマントを翻し、目的の場所へと向かった。