二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 第五十三話【その男、サッカーの敵なり】 ( No.171 )
- 日時: 2011/04/19 13:26
- 名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: 2RWcUGdy)
- 参照: 愛媛編始まります!
「皆、よく聞いてちょうだい」
京都を出発したイナズマキャラバンは、一般道を駆け抜けていた。比較的、黒や白が車のカラーに人気な時代にこのキャラバンは浮きすぎだと思う。窓の外をこっそり覗いてみると、隣の車線を走っている家族が不思議そうな瞳でこちらを眺めているのだ。見せ物のような気がしてくる。ただそれでも、こうやって皆さんのために体をボロボロにしてまで戦ってくれる少年たちがいることを、心に刻んでいただきたい。蹴球少年達の勇姿を。
「今、響木監督からメールが来たのだけれど……」
「響木監督から?」
円堂くんは体を前にのめらせて、運転席の隣にいる瞳子さんを覗き込む。対して瞳子さんは、不思議そうな表情の円堂くんに一瞥もくれず、言い難そうに話し出した。その瞳は、戸惑いからか揺らいでいる。いつも冷静な瞳子さんが、こんな表情を他人に見せるなんて。
「……愛媛県の真・帝国学園を率いている人物が、」
————影山零冶。
「まさか……だって、あの男は!」
「懲りない男だ」
皆さんは、口々に影山さんに対する暴言を吐いている。悪口はいけないことだけど、どうしてそこまで嫌がるのだろうか。あの円堂くんでさえ、怒り故に握った拳が震えているのだ。私はFFのこともよく知らないので、何があったのかわからない。ただ、それでも。たった一言でこんなに雰囲気が重くなるのだ。相当な事情があるに違いない。あれ、でも"帝国"って……
「鬼道くんの様子、いつもと違いますよね」
彼だけ他のメンバーより苦しそうに、そして悲しそうに見えた。そうだ、帝国学園は鬼道くんの母校だったよね。
「影山は、試合直前のフィールドに鉄筋を落下させて雷門イレブンに怪我を与えようとしたのよ」
「……その後、無事に逮捕されたんだけどね」
そんな悲惨な事件があったなんて。第一、大勢の観客がいる前でそんなことを行うとは、酷すぎる。純粋にサッカーを愛する世界中の人々を裏切ったようなものじゃない。
ああ、やっぱり。大人なんて、その程度なのだろうか。子供の価値観を、世界を。大人の観点でしか覗くことができない。
「……、やっぱり大人は汚いです」
「桃花ちゃん?」
しばらく何も言えなかった私。大人なんて大嫌いだ。あの日から、ずっとずっと。
瞳子さんから新たな敵の出現を聞いた私たち。お陰でキャラバン内は静まり返ってしまった。先程までの賑わいは、もうどこにも見られない。それ程、影山零冶がつけた心の傷は大きいのだろう。
ため息を吐きかけた刹那、特有の笑い声が車内に充満して。何かと思って振り向くとそこには、怪しいフィギュアを抱きかかえて泣きじゃくる目金くんがいた。それを見て大笑いしている木暮くん。あ、またやっちゃったんだ、悪戯。
「僕のフィギュアがぁ……どっどうしてくれるんですか!?」
「たかだか玩具でしょ? ウッシッシ!」
木暮くんは、勝手にキャラバンに乗っていたのだ。どうりで最後、姿を見せなかったわけで。そんな木暮くん、また悪戯を始めちゃってます。
「だいたい、ちょーっと可愛いからって調子に乗り過ぎなんですよ!」
春奈さんは、木暮くんを叱ろうとするも……目金くんの迫力に押されてしまっている。いや、空気読んで怒ってないのかも。キャプテンも困り気味。でも、目金さんも子供だよね。
「落ち着いて下さい、目金くん」
「も、桃花さんに言われても僕は許しま——」
目金くんの言葉を遮る。そしてまっすぐ彼を見つめ、
「ちょっと自分に可愛さが足りないと自覚してるからって、後輩の木暮くんに当たるのは、よくないと思いま」
「桃花さん!?」
愛媛県までの道のりは、まだまだ遠いです。