二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

 *続き* ( No.229 )
日時: 2011/06/19 15:00
名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: Fn07flnU)
参照: 心配症風丸さん。





 同時刻、城内にて。


 普段の穏やかな雰囲気は何処へやら。城の隅から隅までを食い入るように覗き込む円堂の姿がそこにはあった。いつもは、若々しい希望を映しこんでいる彼の瞳には、うっすらと焦りの色が浮かんでいた。しかしそれは、円堂に限った話ではない。忙しなく駆け回る女中達も、さぞ重いであろう鎧を鬱陶しそうに着込み裏庭を捜索する兵士達も、蓄えられた絹のような白い髭を揺らしながら杖を突いて地図が無ければ迷ってしまうような城の部屋を巡る大臣達も——皆、焦燥感がびっちりと張り詰められた城内で、たった一人の少女の影を捜していた。明るい栗色の髪を揺らし、楽器ケースを左肩に下げ、嬉々として駆けていくまだ幼さが残る小さな背中を。だがしかし、捜索開始から二時間が経過した中、誰一人としてその少女はおろか目撃情報さえ見つけられずにいた。徐々に苛立ちを孕んだ言動が多くなってきたようにも思える。が逆に、今にも泣き喚きそうに瞳を濡らす召使の姿も多々ある。
 それは、城の御三家にも共通して言える事実であった。


「おかしいな……これだけ城を探し回って、手掛かり一つも得られないなんて」


 王と共にその道を歩く誓いを果たし、今日もそしてこれからも駆け続けるであろう青年、風丸一郎太。


「魔女の住処にさらわれた可能性は?」


 史上最年少で軍事機関のトップに君臨し、数々の戦を勝利に導いた天才、鬼道有人。


「それはあり得ない。何せ、魔女の姿も確認されていないのだからな」


 炎のサーベルを操り、自らの手で大切なものをすべて護り抜いてきた最後の英雄、豪炎寺修也。


 彼等三人もまた、消失した主人の捜索に頭を抱えているのであった。焦燥感に逸る気持ちを抑え込み、冷静に現状を把握しようと行動する。しかしこれまで、すべてが空回りしていた。何をしても、どれだけ駆けても、大切なあの人の姿は見つけられない。それが何をしても埋められない喪失感を味あわせるのだと、青年達は痛いほど思い知らされた。いつか少女に約束させられた『戦場だろうと何処であろうと、必ず帰ってきて下さい』という言葉が、くるくると脳で廻る。その言葉の響きにかつて、これほどの重みを感じたことがあっただろうか。
 ならば今、貴女に告げたい。


「終わらない“かくれんぼ”なんかやめて、今すぐ帰ってきてくれ……」
「風丸、」


 鬼道に制され言葉を飲み込む風丸。先程より下ばかり向いている風丸に不安を感じたのか、豪炎寺はちらりと空色のポニーテールを窺うと小さく「大丈夫だ」を告げた。ああ、と半ば上の空で返答する風丸にやはり不安を隠せない豪炎寺。一見、鬼道は冷静そうに見えるが真紅の瞳は揺らいでいる。動揺しているのは皆同じなのだ。


「……普段通り、とまでは言わないが少し落ち着こう。見えるはずの答えまで見失うのは御免だ」


 そうだな、と豪炎寺。隣の風丸もこくんと頷いた。陽の光が優しく差し込む裏庭、のどかな雰囲気であるにも関わらずこうして悩まなければならない現実が、苦しいほどに哀しい。きっと彼女ならお茶会でもしようと微笑むのだろう。ああ、でも——、いけない。最悪の結末を思い浮かべてしまった自分に叱咤を飛ばすと風丸は、パンパンと乾いた破裂音を二つほど響かせ空を見上げた。
 彼女が帰ってきたら、まずは思い切り叱ろう。そして——楽しい“お帰りパーティー”でも開こうじゃないか。

 哀しみと絶望を孕んだ紅い瞳に、希望の光が一筋、差し込んだ瞬間だった。