二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: *小さな初恋* 【inzm11/アンケ実施中です!】 ( No.245 )
- 日時: 2011/07/10 15:54
- 名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: SjhcWjI.)
- 参照: もうちょっとでこれ終わる(はず)……!
「それにしても、」
焦燥感しか張り付けられていなかったその顔に、疑問の文字が浮かぶ。それは、軍の指揮を執り国を護ろうと日夜精進している冷静な少年——鬼道有人からは想像もできない表情であった。彼も迷い悩む時があるのかと、隣でぐったりとしていた風丸が目で語る。そんなアイコンタクトに応えつつも豪炎寺は、鬼道の続く言葉を促していた。ゆっくりと確かめるように鬼道は呟く。
「何故こんなに、静かなんだ……?」
そう言えば。この五文字が三人の顔に浮かぶ。消失した姫の捜索に総動員されているのだ、暇を弄んでいる者などいるはずがない。それならもっと慌ただしいのでは——否、少し前はもっと騒がしかった。何かあったのではないか、そんな不安が御三家に過ぎる。だが直接、不安を公にしないのが経験から得た知恵だ。居心地の悪い沈黙に包まれようとも仕方がない。彼女がいなくなって一番辛いのは——紛れもない我が主、なのだから。
「風丸、手の空いている兵士に城内の見回りをさせろ」
「了解。だけど……おかしくないか?」
「何がだ」
風丸は手短に、傍にいた兵士に見回りを任せると言葉を続けた。
「約束の時間なのに——王も女中も、帰ってきてない」
ぼーんと、街の中央部にある教会の鐘が響いた。
それは捜索が始まる少し前のこと。どうしても桃花を捜すんだ、と聞く耳を持たない王に豪炎寺が持ちかけた約束事だった。『鐘の音が三回鳴るまでには帰ってこい、それでも桃花を見つけられなかったら俺達に任せろ』と。諦めないのが王の長所でもあるが、往生際が悪いと言えば短所と化す。ならば捜すだけ捜させておけばいい、それが豪炎寺の考えであった。その時にはもう、見当は付いていたのだ——今の状況では、桃花は助けることができないと。
ぼーんと再度、鐘が響く。
「……家来をつかせたが駄目だったか」
「しぶといのが王の特徴だ、そう簡単に帰ってくるはずがない」
「でもえんど……王は約束は守る男だ。そうだろう?」
矛盾した考えが交差し、答えはさらに遠くなってしまった。悩み、頭を抱える彼等の耳に最後の鐘の音が滑り込む。何か、あったのではないか——ぼんやりと頭の隅でそんなことを考えたらしく、風丸は更に顔を青白くさせた。疲労困憊というところか。短時間と言っても風丸は、家来に指示を出しつつ女中たちを慰めもしていたので、鬼道や豪炎寺よりも多く動いていた。それに加え、姫と王の心配もしなければならない——心配性の彼としては、辛さも一入なのだろう。
大丈夫だろうか、と豪炎寺が微かに瞳を歪ませた瞬間——バタンと、飛び出すような勢いで一人の兵士が飛び込んできた。何か収穫でもあったのかと期待が込められた視線が兵士に集まる。大粒の汗を流している兵士は、ぜえぜえと息を切らしながらこう叫んだ。
「御三家に報告致します! 今すぐ……今すぐにでも、姫の捜索を断念して下さい」
空気が固まった。
ふざけるな、と今にも怒り出しそうな家来達をたしなめ、その兵士を再度眺める風丸。刹那、背中を走った悪寒は何だったのだろうか?
「……何故だ」
その言葉は以外にも淡々と吐き出された。最も、鬼道のその紅い瞳は、憤りと困惑に満ち溢れていたのだが。だが、兵士はそんな彼の視線など気にも留めていないようで。まだ少し乱れた呼吸を整えると、静かに切り出した。