二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: *小さな初恋* 【inzm11/アンケ実施中です!】 ( No.246 )
日時: 2011/07/26 16:18
名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: eXBL1K9M)
参照: 久しいですね^^




「……姫様を捜すのは、もはや意味を成さぬ事なのです。それなのにどうして、姫様を捜す理由が見つかると言うのでしょうか? 周りの兵士等もくたくたです。休ませてやらねば、他国軍が攻めてきた時に影響が出ま——」


「聞こえないのか、貴様は!」


 掠れた声で必死に言葉を紡いでいた兵士を、豪炎寺が一括した。無意識なのか、周りの女中達は小さな悲鳴を上げ、大臣達はびくっとその身体を震わせる。兵士は遮られた言葉の続きを呑込んだ。が、あれほどの剣幕で怒鳴られたと言うのに、怯えている様子は見られない。その光景に違和感を覚えたものの、風丸はゆっくりと立ち上がった。


「……俺達が聴きたいのは、お前の私論では無い。姫の捜索を諦めなければならない、その馬鹿げた理由を知りたいんだ」


 堂々と佇まい、兵士をやんわりと先制する風丸。もうこれ以上、そんなおかしな事は言わせない。真紅の瞳がそう、語っていた。
 だいぶ呼吸が落ち着いてきた様子の兵士は、自分が何故怒鳴られたのかわかっていないようにポカンと口を開け、そして唾を飲みこむと目を伏せた。


「姫様はもう、この国にはいません」


 落とされた言葉の威力は大きい。
 短く、そして淡々とした響きの言葉だったが、部屋を駆け巡るどよめきはそう小さくは無かった。城はおろか、国にもいないなんて。誰かがポツリと呟く。若い女中が隣にいた、そう歳も変わらないであろう娘を突く。彼女が呟いたことは、そんな一連の動作から見えた。鬼道は突然顔を上げ、キッと兵士を睨みつける。そして、そのまま厳しい眼差しを向けたまま「根拠は」と尋ねた。


「……特攻隊第二番隊隊長、木暮より報告を頼まれました。我々特攻隊の一部が見たらしいのです。……えぇと、その、」


 姫様を抱き抱え、煙となって消えた魔女の姿を。
 言葉を濁しながらも兵士はそう告げた。憎らしそうに潜められた眉間が、彼の心情を映し出す。しばらく考え込んでいた鬼道だがゆっくりと顔を上げると、「木暮から一人で行けと言われたのか?」と小さく尋ねた。兵士はパッと口を開くと、凛々しい声で返答した。
 がくっと、誰かが崩れ落ちる音が虚しく部屋に響く。


「……鬼道、どうする?」
「俺は魔法使いでは無い。その魔女の行先までは予測不可能だ」


 それはつまり、


「桃花姫を諦めろと、そう言いたいのか」


 どこか諦めを孕んだ声音で問いかければ、鬼道は風丸とは目を合わせず、静かに頷いた。がたんと風丸が椅子に崩れる。近くにいた女中が駆け寄り、慌てて風丸の体を支える。その手を大丈夫だ、と取り払う声は湿っぽい。
 その時、ゆらりと影が一つ、立ち上がった。風丸が弱弱しく彼の名を呼ぶも、反応を示さぬその背中にもはや掛ける言葉は見つからない。


「桃花が消えた、か………」


 他人事のように呟く豪炎寺。風丸が豪炎寺を宥めようと椅子を引いた。刹那、


「ふざけるなっ……——道化の面をかぶった悪魔め、っ!」


 抜かれた重々しいサーベルがぎらりと、痛々しい鋭利な光を放つ。
 英雄の黒き瞳に殺意にも似た憎悪が宿り、戦うことでしか大切なものを護れないその身体が闇を忍ばせた風に化し、誰も待ったを掛けられない一瞬のうちに、その光は何かを切り裂いた。

 道化師の仮面が、瞬く間に崩れていく。