二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: *小さな初恋* 【inzm11/アンケ実施中です!】 ( No.248 )
- 日時: 2011/07/28 21:44
- 名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: 4vtppfc1)
女中たちは皆、両手で顔を覆い顔を背けた。それもそのはず、人が斬られたのだ。サーベルは正義を破り、己の欲望のままその仮面を打ち砕いた。——が、鮮血の飛び散る音も、兵士が立ち崩れる騒音も、何も聞こえない。この空間だけ、世界から切り離されてしまったように。静寂に包まれた室内で恐る恐る目を開ける。そこにいたのは——、
「いきなり斬りつけるなんて、荒々しいわね」
人間離れした美貌を持ち、妖艶な微笑を浮かべた一人の——女の姿。
そんな彼女のすぐ横に、あのサーベルは存在していた。豪炎寺はきっと心臓を狙ったのであろう。自分が避けられたことに気付いたのか、その瞳には驚愕の二文字が踊っていた。が、空を切り裂いた剣が、ぱっと身をひるがえすと女の喉元に突き付けられる。忌々しそうに女を睨みつける青年は、吐き捨てるように呟いた。
「——何故おまえがここにいる……ッ!」
それは、この場にいる全ての者の言葉を代弁したものだった。
黒いローブがゆらりと泳ぎ、そこからすうっと白魚のような手が伸ばされる。その手には何も載せられていなかったが、やんわりと開かれた掌には淡い灯が浮き出ていて。純白のそれを美しいを感じるよりも先に、焦燥感と恐怖心を煽られる。
青年の言葉に対し、女——史上最悪の魔女は不気味な笑い声を上げた。幼い赤子の無垢な声にも聞こえるが、年老いた老婆の乾いた声にも思える。そんな不思議な笑い声は突然ぱたりと止み、代わりに艶やかな笑みを唇で描いた。
「十四年ぶりと言うのに……『また』もてなしてはくれないの?」
寂しそうな口調。だが、声音はどこか楽しそうだ。
そんな魔女は、——そんな魔女こそ、この最悪の祭りの首謀者であった。自分が姫の出生パーティーに招待されなかったことを恨み、産まれたばかりの彼女に呪いをかけた、最後の黒魔法使い。大臣たちはどこか恐れ慄いているものの、その瞳が映すのは憎悪の籠った負の感情であった。
「まあ、そのもてなし方は改めた方が良いわよ。それにしても、何故正体がばれたか訊きたいところだわ」
「簡単だ。——おまえは嘘が上手過ぎるのさ、そこに“違和感”が生じるほどに」
「そう。貴方、随分と冷たくなったわね……英雄さん」
厳しい瞳で睨みつける豪炎寺を魔女は、どこか愉快そうに眺めていた。その視線の裏には『お前など敵では無い』という魔女の余裕も垣間見える。——つくづく嫌な女だ。風丸は立ち眩みを覚えるも立ち上がり、精一杯、魔女をその真紅の瞳で睨みつけた。彼の視線に気づいたのか、魔女が風丸を見遣る。びくり、と彼の身体が跳ね上がった。
「……も、桃花姫の居場所を知っているんだろ?」
それでも何とか吐き出された言葉は、魔女を不機嫌にさせたようで。その細い眉が潜められる。
「貴方はいつでも姫様姫様で……つまらないわ」
「そんなこと、どうでもいい。——彼女は何処だ? 何処に連れ去った?」
鬱陶しそうにその黒髪を払うと、魔女は自分の手元を見つめ始めた。カチャリとサーベルが喉に近づくが、それ以上は動けないらしい。固まってしまった手首を見て、豪炎寺は目を見開く。
「——呪いは、誰にも解くことができないのよ」
魔女の足元に描かれた、暗黒の魔法陣。ぼうっと鈍い光を放ち始めたそれは、いつしか魔女の掌に集められていた。
「大丈夫、安心なさい。全員、今すぐにあの娘のもとに連れて行くつもりだから」
「どういうつもりだ!」
「——憎しみは永久に消えることがない、悲しい哀しい記憶だということを貴方たちの頭に刻み込んであげるわ!」
光は徐々にその膨張させていき——ついには全てを呑込んだ。
ブラックアウトする視界、がつんと殴られたような衝撃、微かに香る甘い匂い、瞼に浮かぶ幼い少女の背中……ぐるぐると廻り続ける何かが、彼らを襲う。そして、佇む城をも呑込んだ。茨が何処からか生え始め、がっちりと城を覆い尽くす。陽の光も届かない、孤独な孤独な世界が完成した瞬間だった。
「……これが報いよ、」
ぽつりと落とされた、酷く掠れた悲痛な叫びを最後に、城には何も響かなくなった。
*
くにのひとびとは、とてもおどろきました。ごうおんがあたりにひびきわたり、そとにでてみれば——あのおおきくてうつくしかったおしろは、こいみどりのいばらにおおわれていたからです。なんにんものおとこたちがいばらをつきやぶり、なかでねむるおうとひめをすくおうとしましたがみな、きずだらけになってかえってきました。そしてとうとう、だれもひめをすくいだそうとはしなくなりました。
なんにちもなんにちも、ひはまたのぼり、そしてつきとほしがおどって、またたいようがかおをだしました。
ながいながいじかんはとうとう、ひゃくねんかんもまわってしまったのです。
さて——おひめさまはまだ、とうにとじこめられたまま。
たすけてくれるおうじさまは、まだこない、まだこない。きっとずっと、もうこない?