二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: *小さな初恋* 【イナズマイレブン】 ( No.35 )
日時: 2010/12/27 14:42
名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: eMRX3Yay)


  第十九話【大丈夫だよ】

「本当に大丈夫なの?だって、相手はサッカーの名門校なんでしょ?」
「平気平気!!折角の機会だし…断る理由も無いから」

 のほほんと微笑む士郎を見て、私は思わず溜息を吐いた。突然の練習試合の申し込みにも関わらず、いとも簡単に受け入れちゃうんだから。マイペースと言うか、何と言うか…
 事の発端は、瞳子さんの一言。断る理由も無い、と部員の皆も意気揚々と校庭へ出て行った。確かに、FFに出場できなかった学校が日本一と試合が行えるチャンスなんて、ほとんど無いけれど…監督の許可くらい、貰って来ればいいのに。

「あ、滑るから気をつけてね」

 そんな事よりも心配する事があるでしょ!!居ても立っても居られなくなり、もう一度だけ士郎に尋ねようとする。"本当に大丈夫なの?"と。けど、きっと私は、いきなり行う練習試合を心配してるんじゃなくて…その先の未来を心配してるんだ。士郎の実力は、確かなもの。あの監督の目に留まらない筈が無い。そのスカウトを士郎が受け入れたら…もう一緒には、居られなくなる。それが嫌で嫌で、仕方が無いんだ。

「桃花…」
「頑張ってね、練習試合」

 覗きこまれるよりも先に、笑って見せた。そうだよね。これから何が起ころうと、時任せにしか出来ないんだから。今、私がどんなに心配したって未来は変わらない。そんなの、とっくに解っている。解らなきゃいけないんだもん。
 ふと顔を上げると、校舎の屋根から積っていた雪が、盛大な音を立てて落ちた。北海道の建築物の屋根は、自然に雪が落ちるような設計になってるんだよね。だから、どこの民家の屋根も急角度。これが北国を知恵。

「…え?」

 目の前から士郎が消えた。階段に蹲っている。具合でも悪くなっちゃったの?とっさに士郎の背中を摩った。ガタガタ震える士郎。その震えは、何かに怯えているように見えた。雪が落ちただけなのに。そう、雪が…一気に落ちてくる。過去の出来事が脳裏を過ぎる。雪が流れ込んでくる。そのせいで…大切なものを失ってしまった哀しい過去。

「…っ!!」

 唇を真一文字にキュッと噛み締め、震える自分の身体を必死に抱きしめている士郎。握られた拳を、冷え切ってしまった指先まで包み込んでみた。大きくなっていた士郎の右手。そっくり包み込むには、片手だけでは足りなくて。

「大丈夫。誰もいなくなったりしないから」
「もも、か…」

 我に返った士郎は、スクッと立ち上がる。まだ、あの事故の記憶が"トラウマ"として心に深く残っているんだ。改めて知った。知れて良かったと思う。

「大丈夫だから」

 安心させたくて、もう一度、繰り返してみる。紺子ちゃんや氷上くんが見守る中、ようやく笑った士郎。そんな時、「ナヨナヨした奴だな」と誰かが呟いた気がした。