二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: *小さな初恋* 【イナズマイレブン】 ( No.47 )
- 日時: 2011/01/08 16:43
- 名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: eMRX3Yay)
第二十五話【偽りに満ちたその答え】
少しのんびりし過ぎたかもしれない。校庭へ行くと、待ちくたびれたような円堂さんがいた。私たちの姿を確認した途端、嬉しそうに笑ったけれど。仲間が増えるって、嬉しい事なんだろうな。しかも、サッカーに関して士郎は頼もしいし。……普段は、少しおっとりし過ぎなんだもん。
「おお!二人とも似合ってるじゃないか!」
ありがとう、と返す士郎。白恋中の皆も喜んでいた。きっと士郎なら白恋中を救う事が出来るだろうから。士郎がいれば大丈夫なんだから、このユニホームを脱いでも良いですか?……なんて言えず。これからの練習についての説明に耳を傾ける事にした。
まず赤と白の二つに分かれて、攻守を交代しコンビネーションの練習をするらしい。
「面白そうですね」
「……白恋の練習でもやってみたいなぁ」
さすが部長さん。きちんと皆の事を考えてくれているんだ。
「吹雪くん、貴方にはFWをお願いするわ」
え?と不思議そうに考える士郎に対して瞳子さんは、『不服かしら?』と声をかける。そう言えば、私はどうなるんだろう。MFだし……試合中、何もしていないし。人数も大丈夫なのかな、と後ろを振り向いた。視線の先には、偶然にも雷門のFWさんがいて。士郎を凄い顔で睨みつけていた。反射的に背を向ける。
「桃花、どうしたの?」
凄い勢いで振り返った私に、士郎が優しい声をかけてくれた。あの桃色のごく短い髪の毛の人……試合の時も士郎と張り合ってたっけ。仲良くしてくれないのかな。せめて睨みつけるのはやめてほしい。怖くて話し辛くなっちゃうから。
「あ、えっと、その……何でもない」
随分、言葉が途切れてしまったけど士郎はあんまり気にしてないみたい。私としては、気にされても困るだけだから丁度良かった。深く追求されても、曖昧な言葉しか返せない。
「桃花さん、少しいいかしら」
「は、はい!じゃあ、瞳子さんの所に行ってくるから」
逃げるように駆け出すと、冷たい空気が頬をさらして痛かった。雪は、天使の羽みたいに綺麗でふわふわしてるけど、時には簡単に人の"命"を奪い去る。"綺麗な薔薇には棘がある"って、こういう事を表してるのかな。
壁になった雪をぼんやりと眺めながら、ふとそんな事を考えた。
「何でしょうか。瞳子さ……監督さん」
「呼び難いなら、しばらくそのままでも構わないわ」
私の心を見据えたように呟く。呼び辛いの、ばれてたのかな?でも、どうしてだろう。別に『瞳子さん』と呼び慣れていた訳でもないのに。癖のように言ってしまって、直しようがない。
「この練習、貴女には見学して貰いたいの」
「え?……は、はい」
キャラバンへ参加して欲しいと言ったら、練習は見学しててなんて。瞳子さんは、私を何だと思ってるのかな?
「貴女には、マネージャーとしても期待しているから」
覚えておく事がたくさんあるから、練習中に覚えてねって事?それだけ言って、この場を去ろうとする瞳子さん。あまり自分の考えを人に話さないのかな?お姉さんとは正反対だ。お姉さん、いつも唇が動いている人だもの。
ぼんやりしながらも、私の中に急に湧き上がってきた疑問。今、聞かないでいつ聞けるだろう。ううん。きっと、今しかない。
「監督さん」
震える自分の声が、瞳子さんの背中にぶつかる。あ、私、監督さんって呼べたんだ。
「私は、イナズマキャラバンに必要な人間なんですか?」
小さく揺れた肩。しばらく沈黙が流れ、黒い髪が振向きざまに靡いた。
「……ええ。貴女は、サッカーの能力に優れ、人の心を理解できる存在よ」
初対面の人が、何故そこまで私について語れるのか。また疑問が湧いてきたけれど、胸に留めておく事にした。瞳子さんの言葉は、最高の褒め言葉だったから。きっと人間観察が上手なのかもしれない。自分の思考内で簡単に疑問を処理すると、私は瞳子さんに頭を下げた。
——その時の彼女の瞳が切なげだったのは、私の錯覚なんだろう。