二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: *小さな初恋* 【イナズマイレブン】 ( No.51 )
- 日時: 2011/01/17 16:44
- 名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: eMRX3Yay)
第二十七話【"風になろうよ"】
白恋中の校舎の裏は、ゲレンデになっている。東京では見慣れない光景だから雷門の皆さんも興味ありげに覗き込んでいた。
一週間前から解禁したこの練習。初めて見た時は、私もとても驚いた。が、これが士郎のスピードの秘密なのだと思うと納得できない訳ではない。白恋の皆に声をかけて、たくさんの雪玉が完成した。
「これで何をやるんだ……?」
「見てて下さい。もう来ると思いますから」
振向くと、雪独特のあの音が聞こえた。どうやら、準備が整ったらしい。
「お!スノーボードか!」
士郎が両手で描いていた長四角は、スノーボードのことだったらしくて。まあ、言葉で説明するよりもやってみせたほうが早い。士郎は、いきおいよく飛び出していった。
走る速さも風のようだけど、雪の上を滑るほうが格段に速い。
「は、速いっ!! すごいよ!!」
「ですよね……そろそろかな?」
だいぶスピードにのってきたことを確認すると、雪玉を押し出す担当の子に手を振る。士郎も気付いたようで。せーの、と声が響き渡った。
ごろごろと大きな雪玉は、不規則に転がりまわる。
「あ、危ない!!」
そのうちの一つが士郎に迫ってきていた。が、人の心配をよそに軽々と避けてしまう。見慣れていても、やっぱりすごいなぁなんて感心してしまう私。
いつまでも見ているのが仕事じゃない。首をひねっている皆さんに、説明することにした。士郎の自論を。
「雪の上を滑ると走ったときより早くなりますよね。そのスピードに慣れてくると感覚が研ぎ澄まされて、周りのものが見えてくるらしいんです」
「だから、風になろうと……」
士郎は昔から、スキーもスノボも上手でしたから。そう一言付け足した直後、背後から悲鳴が聞こえた。雷門の人らしい。動き難い足元をひねって——スノーボードを付けているせいなんだけど——状況を見てみると、転がって来た雪玉に飲み込まれたらしい。大きな悲鳴をあげながら、尚も転がり続ける雪玉は木にぶつかると儚く崩れた。木に積っていた雪が、当然のように流れ落ちる。
途端、士郎は蹲った。
「士郎!!」
先に駆け下りた雷門の人たちを抜かすと士郎に話しかける。この時ばかりは、スノーボードを付けておいて良かったと思った。目線を合わせ、大丈夫だよ、と声をかける。なるべく優しい声色で。お陰で円堂さんたちが駆けつける頃には、笑顔を見せられる程に立ち直っていた。——少し、声が震えていたのを除いて。
「大丈夫か?吹雪」
「……うん。ちょっと失敗しちゃった」
ほっと安心したように手を差し伸べる円堂さん。その手に縋るようにして立ち上がった士郎は刹那、私の瞳を見つめると申し訳無さそうに俯いた。誰も悪くないのに。後で士郎によく言い聞かせておこう。
————士郎が悪いわけじゃないんだから、と。