二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: *小さな初恋* 【イナズマイレブン】 ( No.53 )
日時: 2011/01/17 17:23
名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: eMRX3Yay)


  第二十八話【少女の悩み事】

 士郎と私の指導の下、皆さんはとても筋が良くてどんどん上達していった。とても初心者とは思えない上達振り。教え甲斐もあって、楽しみながら練習ができていた。やっぱり、楽しさがあるのとないのじゃ大違いなんだね。
 ただ……FWさん——染岡さんは、何故か士郎と打ち解けてくれなくて。士郎も喧嘩売るような台詞を言ってるんだけど、染岡さんは士郎をどことなく撥ね付けている。受け入れようとしてくれない。同じ雷門イレブンとしては——そういう私も、一応その一員なんだけど、仲良くして欲しい。じゃないと、きっとプレーにまで支障が出てくるから。それは、個人にもチームメイトにも悪影響を及ぼす。その中心地が士郎だなんて、絶対嫌だもん。

「大丈夫なのかな……」

 今、皆さんは夕食をとっている。カロリー計算も完璧、筋力の向上に効果があるとかないとか。曖昧にしか覚えてないけれど、とにかくしっかりとしたメニューだってことに違いは無い。一回につき三十回は噛む。消化をよくする為なんだとか。やはりスポーツの基本は、体調管理からなんだな。
 それは別として、いつ現れるかわからない敵と戦わなければならないのに。士郎のコンディションは問題ない。けど、チームとしてのコンディションは最悪。もし明日、ジェミニストームが現れたら……きっと雷門は、三度目の敗北を自ら招かざるをえない。
 右手で抱いた資料の空白に、"吹雪士郎"と小さく書いてみる。たった一つの存在なのに、士郎は雷門という環境に大きな影響を及ぼしている。良い形だろうと、悪い形だろうと。私の幼馴染、吹雪士郎という存在には、どんな力が宿っているのだろうか。果たしてその力は、本当に世界を救うのか。はたまた、自らとその周りを"破滅"へと追い込むのか。未来は、本当にわからない。

「桃花、どうしたの?こんなところで」

 肩をぽんと叩かれた。声の主は、私の心配している環境を作り出している原因の一人だった。今更ながら、この廊下はかなり寒いということに気付く。

「夕食、もう食べ終わったの?」
「もうって……結構前に食べ終わったよ」

 いつのまにそんな時間が過ぎ去っていたんだろう。私は、マネージャーさんたちと食べるつもりだったから、もうそろそろ行かなくてはいけない。その場を立ち去ろうとして、やはりやめた。ちょっと聞いてみようかな、なんて。

「あのね、士郎」

 一度開きかけた唇は、何も語ることなく閉じられた。私は本当に意気地なしだ。疑問や悩みはあるくせに本人に聞く事が出来ないんだから。気を遣って、とかじゃない。本当に勇気がないんだ。
 なぁに?と首を傾げる士郎に罪悪感が湧き出した。でも、もうどうにもならない。

「えっと、その、なんでもない」
「ん?……変な桃花」

 寒いから早く戻んなきゃ駄目だよ?士郎と自分に言い聞かせると、足早にその空間から逃げ出した。——弱い自分を罵りながら。