二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: *小さな初恋* 【イナズマイレブン】 ( No.57 )
- 日時: 2011/01/22 20:07
- 名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: eMRX3Yay)
第二十九話【マネージャーの会話】
「あ……桃花さん、左利きなんですか?」
春奈さんの明るい声で箸を落としかけた私。昔からそう、左利きは珍しいらしくて、話題を振られる。私の家系は、どちらかと言えば左利きのほうが多い家だったから、幼い頃はあまり意識していなかった。小学校に上がった時から、そのことが話題に持ち上がることが多くなって。自分が話題の元になるのは、ほんの少し照れくさい。
「だからボールを蹴る時も、左だったのね!」
「確か、豪炎寺さんも……」
刹那、部屋の温度が下がった気がした。発言元の春奈さんは、慌てたように自分の口を両手で押さえていた。秋さんも夏未さんも、目が泳いでいるように見える。三人は、あきらかに動揺していた。
豪炎寺さんって、確か染岡さんも言っていたような。誰なんだろう?
「あの……気になってたんですけど、豪炎寺さんって?」
いつもならば、この空気をどうにかしようと頭をひねるんだろう。けど、豪炎寺さんって人がどんな人なのか気になる。染岡さんが士郎を撥ね付ける理由もわかるかもしれない。FWだったのかな、とか卒業してしまった先輩なのかな、とか。
でもきっと、雷門中サッカー部にとって大切な存在だってことに、間違いは無い。
「……豪炎寺くんは、」
途中まで言いかけた夏未さんの唇は、それ以上、言葉を発することは無かった。
「そろそろ片付けに入って。明日のこともあるから早く寝ること、良い?」
「は、はい……」
瞳子さんのこの一言。堅苦しい雰囲気の中、三人は早々と片付けに入ってしまった。気になったけど、この話はまた今度にしよう。実は、この後に、
『豪炎寺くんのことは、あとで教えてあげるね』
秋さんが小さく囁いてくれたから。だから……明日の為にも、早く休まなきゃ!
*。+
朝、一人でスノーボードを持ちゲレンデへ向かう。皆に教えてあげるばかりではなくて、自分のリズムで滑りたかったから。こんな時間なら、誰もいないだろうと思って。でも、私の考えは見事に違っていた。
「うわぁぁ!?」
聞き覚えのある声。板を抱えて小走りする。ゲレンデに響いた叫び声は、なんと染岡さんのものだった。昨日は、士郎が提案した練習を「遊びの延長じゃねえか」と、ずっと見学していたのに。やはり、興味が湧いてきたのかしら?でも、悪いことじゃないもんね。染岡さんの周りには、円堂さんと風丸さんがいた。三人でふざけあっている。楽しそう。楽しそうすぎて、あの雰囲気に入りづらい。スノボは、また今度でも良いか。足早に校舎へ帰ろうとした。が、またまた叫び声が聞こえて、立ち止まる。
「や、やったな…!それっ」
「仕返しだっ!」
真相は、ただの雪遊び。事故や何かじゃなくて良かったと思う反面、それくらいで叫ぶなんてと思う私。自分だって、昔はこうだったのに。思い出して零れるのは、呆れ気味の苦笑のみ。
ふと、雪と戯れる三人が私の記憶と重なり合った。無邪気な笑顔で、心から楽しそうに。そんな景色は、私のすぐ近くにもあったような……嗚呼、そうだ。幼い日の私たち三人か。士郎と私と、"アツヤ"の姿。アツヤの事を思い出すと、少し目眩がする。それはきっと、士郎のなかに存在する"アツヤ"と記憶のなかで生きる"アツヤ"が、重なり、入り混じり、抵抗し合うからなのだろう。
もうどうにもならないなんて、わかりきっている。だからこそ、自然に虚無的な笑みが漏れた。