二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: *小さな初恋* 【イナズマイレブン】 ( No.73 )
日時: 2011/02/07 16:50
名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: eMRX3Yay)





  第三十四話【少女の出陣】


「くそー!あのシュート、止められなかった……」

 前半が終わり、選手たちはフィールドから帰ってきた。皆、不服そうな表情だが中でも塔子さんは、特に悔しそうに見えた。真一文字に唇をキュッと食いしばっている。雷門イレブンとジェミニストームがぶつかり合うのは、今回が三度目だったはず。確か塔子さんは、奈良で行われたとある式典に出席したところ、日本政治界のトップにあたる、財前総理——塔子さんの父親がエイリア学園にさらわれるのを目の当たりにしたんだと聞いた。父親を助けたい一身でイナズマキャラバンへ参加したんだよね。強いな、彼女は。

「気にすんなって! 次は絶対、止めて見せるから」

 塞ぎこんでしまった皆さんを励ますかのように、今回の失点を笑い飛ばす円堂さん。でもきっと、円堂さん自身も悔しくて仕方が無いはず。その証拠に汗ばんだ右の拳が、小刻みに震えているのだから。相当、すごいシュートだったのだろう。うーん、この状況から逆転勝ちする為に後半はどんな作戦でいくのかな?

「吹雪くん、シュートは解禁よ。それから桃花さん、貴女はMFに入って」
「え……桃花も?」

 どうやら私は、後半から参戦するらしい。鬼道さんが言っていたのだけれど、瞳子監督がわざわざ士郎をDFに下げた理由は——自分たち雷門イレブンの為、らしい。練習を積んで、スピードを身につけたとしても実際に彼等のスピードに慣れるには、やはり時間がかかる。だから前半は、士郎をディフェンスに専念させ守りを重視し、その間に皆さんにエイリア学園のスピードを見切らせていた……というわけ。

「それならそうと、言ってくれれば良かったのに……」
「きっと、監督にも考えがあったのよ」

 不満そうに呟いた春奈さんを秋さんがなだめる。彼女の声は届いているはずなのに、瞳子さんはクイッと顔を背けてしまった。本当に必要なこと以外、口にはしないタイプの典型的なモデルだな。やっぱり、お姉さんとは正反対。

「……桃花なら、あいつ等のスピードにもついていけるよね」
「え、ちょ、期待されても困るよ!? だって私、士郎と違って、もう何年もボール蹴ってなかったし、」
「ううん! この前の練習試合だって活躍してたから、大丈夫!」
「そんな……」

 鉛のように重く感じるユニホーム。霜柱が融けて湿った足元を眺めていると、自然と溜め息が零れた。皆を守りたいのはやまやまだけど、はたしてそれが私に相応しいのか。

「春崎っ!頑張ろうぜ!」

 明るい笑顔を振りまく円堂さん。心なしかその笑顔に救われたけれど、私が皆さんの力になれるかなんて、どれだけ自問しても答えが返ってくるはずがない。こうなってしまった以上、私は私のサッカーをしよう。たとえ、この選択が未来にどんな影響を及ぼすとしても。だって、この疑問の答えはきっと、フィールドでしか見つけられないのだから。