二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- *~バレンタイン特別conte~* ( No.83 )
- 日時: 2011/02/27 12:27
- 名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: 8pbPlA7p)
気付くと、いつの間にか雪が降っていた。ぼんやりと歩いていただけだから、そんな変化さえわからなかったんだろう。羽みたいにふわふわで、やわらかい雪。いつもなら、今にでも雪へダイブして遊ぶんだろうな。でも、今日は違う。大事なおつかいがあるから、雪遊びはお預けなの。今日は、一年で一度の特別な日——大切な大切な、二月十四日だから。
「うう……さむい……」
手袋をつけているにも関わらず、寒さは指先を凍りつかせた。白くなった息を吐きかけて、少しでも寒さを和らげたかったけど、胸に抱えている荷物のせいで、できそうになかった。
小さい紙袋——まだ幼稚園へ通う歳の桃花にとっては、大きめの紙袋には、昨日の午後、お母様と一緒に作ったチョコレート菓子が入っていた。ガナッシュを挟んで作った"ピンク色のマカロン"。親戚の伯父さんは、ショコラティエというショコラ菓子を作る天才なの。この前、親戚一同で集まった時、お母様と一緒に作り方とレシピを教えて貰った。味の保障はできないけれど、お母様は美味しいって言ってくれたの。だからきっと、二人も喜んでくれるはず。でも、どうしても、二人に渡すには量が多すぎる気がする。
「……しろうとあつや、よろこんでくれるかな」
折角だから、一人で渡しに行ってきなさい。お母様に言い包められて、吹雪家へ一人で向かっていた。あーあ、今日はバレンタインだけじゃないのに。私——春崎桃花の誕生日なのにな。お母様、忘れちゃったのかな?お父様も今朝から姿が見えなかったし……どうしよう、本当に忘れられてたら!
そんな、まさかね。ちょっぴりドキドキしてきた胸を押さえて、すぐそこにまで見えてきた吹雪家へ駆け出す。といっても、辺りは当然、雪道なわけで。いつもの速歩きとほとんど変わらないスピードで、焦る思考とは対照的にゆっくりと進む歩調。最近、やっと届くようになったインターホンを押すと、吹雪家の小母さんが答えてくれた。実は、士郎のお母さんって呼びたいんだけど、呼ぶとアツヤが怒るんだ。で、アツヤのお母さんって呼ぶと、士郎が泣きそうな顔になる。だから仕方なく、吹雪家の小母さんって呼んでるの。
『あ、桃花ちゃん?あがってきていいわよ』
お邪魔します、と呟きドアを開ける。いつもなら士郎とアツヤが飛び出してくるんだけど……寂しく思いながら、一人で重いドアを開けた。暗い玄関。士郎とアツヤなら、私の誕生日、覚えててくれると思ったのに……
「おじゃましま……」
明るいリビングへ一歩、踏み出す。途端、パンという音が響いた。例えるなら、銃が発砲したような音。びっくりして体が硬直する。瞳をパチパチさせ、辺りの状況を把握しようとした時——煙の匂いが鼻をかすめ、色とりどりの紙ふぶきやテープが、宙を舞っている光景を目の当たりにした。リビングには、士郎とアツヤ。二人のご両親。そして……私のお父様とお母様もいた。六人の手には、クラッカーが握られている。装飾が施されたリビングは、いつも以上に華やかに思えた。カラフルすぎて、目が疲れてしまいそうなほどに。
「あ……あれ?」
「ももちゃん、たんじょうびおめで———」
「にーちゃんのばか! いっしょにいおうっていっただろ!?」
相変わらず、喧嘩ばかりの二人。でも、この二人を見ているからって、状況がわかるわけじゃない。ぼーっと突っ立っていると、壁にさげられた看板に、私の名前が刻まれていることに気付く。ああ、そっか。もしかしたら、もしかして、そーゆうことになっちゃってるのかも。全部わかった瞬間、嬉しさと恥ずかしさが一気にこみ上げてきて、頬が赤くなっていくのを感じた。そしていつの間にやら喧嘩が収まったらしい二人は、柔らかく暖かい笑顔で、息ぴったりに叫ぶ。
「「はっぴーばーすでー!ももかっ!」」
皆に、私の特別な日を祝ってもらえることが嬉しくて——私も自然と、微笑んでいた。
「……うん、ありがとう!」
( だいすきな、あなたへ )
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はい、バレンタイン特別短編だったりします!
桃花ちゃんは、二月十四日が誕生日ですーっていうプチ設定があります。本編とはまったく関係ありませんがw
ということで、ずーっと書いてみたかった幼少期のお話を書いてみました。三人でほのぼのしてれば良いなーみたいなw
見に来てくださった皆様に、少しでも楽しんでいただけたなら、私もとても嬉しいです。
では、これからも*小さな初恋*&桃花、そして駄作者、桃李をよろしくお願いしますっ!!