二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: *小さな初恋* 【イナズマイレブン】 ( No.88 )
日時: 2011/02/27 12:22
名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: 8pbPlA7p)



    第三十九話【狂い咲き】

 雪道をぼんやりと歩きながら、私は肩からずり落ちた鞄を背負いなおした。学校へ行く時よりも重い鞄。着替えやら洗面道具やら……例えるならば、お泊りセットを積めた鞄。——これからの旅の必需品たち。部屋の鍵は、校長先生に預かっててもらう。ペットもいないし、特に心配なことは無い。ただ、旅先にまでヴァイオリンを持っていくことを、瞳子さんが許してくれるかどうかだけが悩みの種だった。
 寒さが厳しい。いつもより遅い時間と言えど、凍えるような冷たさに変わりは無いから。まあ、場所が場所ということもあって仕方が無いのだけれど。
 着いた場所は——知り合いの名が刻まれた、墓石の前。

「……おはようございます。小父さん、小母さん」

 アツヤの名も呼びかけたが、唇は正常に動いてはくれなかった。もうこの世にいないとわかっていても、私はアツヤと会っている。話している。関わっている。それなのに手を合わせるというのは、なんともおかしな話でしょう?

「まさか、二回目の挨拶が別れの言葉になっちゃうなんて……変ですよね」

 こんもりとした純白の雪。毛糸の帽子のように、墓石に積っていた。無意識に雪を払い落とすと、もう一度、手を合わせる。合わせる、と言うよりかは、指を絡ませ、温もりを保つために合わせているのだけど。

「士郎のことは、私に任せて下さい。もう、一人にはしませんから」

 これだけはちゃんと、伝えておきたかった。ねずみ色の空を見上げると、少しだけ笑ってみる。これは、私の約束なの。もう宣言しちゃったんだから、守らなきゃだめなのよ、なんて。
 そろそろ時間になる。まだ、もう少しここに残りたい衝動を抑えて、私は後ろへ振り返った。が、視界の隅に艶やかな色が映し出される。蹲り、その色のもと——季節外れの、狂い咲きとなった花に手を伸ばすと、小さく呟いた。

「……どうか、私たちを見守りください」

 葉や花弁に乗った粉雪を払う。枯れてしまうのは、きっと時間の問題で。それでも尚、美しい花を咲かせようという植物の生命力に感心した。私もこれくらい、強くなれたら。
 重い体を動かし、再度、歩みを進める。旅の出発点となる白恋中学校まで、あと少し。