二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

 飾らない言葉を伝えてみました ( No.107 )
日時: 2011/02/11 18:26
名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: eMRX3Yay)
参照: かぷとか言っちゃダメ。気付いたらこーなってたんだもん。


 暖かく柔らかい日差しが、惜し気もなく降り注ぐ今日この頃。強風も吹かず、気温が低いわけでもなく、ぽかぽかとした陽気の中、どこまでも澄み切った青空にサッカーボールが一つ、軽快な効果音を辺りに響かせ、グラウンドへと落ちてきた。二、三度バウンドを繰り返すと少年の足元にすっぽりと納まる。

「あー暇だな源田ー」
「そうだな、良い天気だよなぁ」
「人の話聞いてたかお前」

 佐久間は、やや苛ついた表情でボールを蹴った。それでもコントロールは狂っておらず、先程の源田のパスと同じように綺麗な弧を描いてから、落ちてくる。言葉のキャッチボール、では無いが、ボールを蹴る度に楽しそうな会話を繰り広げているので似たようなものだろう。
 二人は、グラウンド貸切状態でパス練を行っていた。シュート練習でもすればいいのだが、いきなり激しく身体を動かしても怪我のもとになる。なので、他の部員が来るまで簡単なパス練を行っているのだ。ちなみに部活開始時刻から、もうかれこれ二十分は経っている。他の部員達は、どこで何をしているのだろうか。

「……あいつ等、どこでさぼってんだろうな」

 帰ってきたらタダじゃおかねー、と佐久間は呟く。帝国学園サッカー部は、全国的にも有名なサッカー強豪校だ。だが、惜しくも日本一の座は、元帝国生、鬼道有人属する雷門中に明け渡してしまっている。今度こそ日本一として帝国学園の名を全国へ知らしめるため——影山の悪事で植えつけられた汚名を、返上するためにも——努力を怠ることなどせず、堂々と勝ちにいかねばならない。そんな話を、学校の上のほうにいる教師に延々とされたばかりだ。

「さあ……でも成神は女子に何か、売りさばいてたぞ」
「成神アイツぜってー許さねぇ」
「まあ、そう怒るなって」

 穏やかに佐久間を慰める源田。当の本人は知らないのだろうが、源田も佐久間と同じく被害者なのである。が、成神が法律ギリギリの行動をしても上手く言い包められているので、全く気付いていない。しかし、佐久間もそんな光景を見逃すわけにもいかず。結果として、源田の天然さに一番困っているのは、他でもない佐久間なのだ。

「……なあ、佐久間」

 先程の穏やかな表情とは一変、少しばかり引き締まった表情になる。ぶっきらぼうな言葉を返すと、源田は力が抜けたかのようにふっと微笑み、

「いつも、ありがとな」

 飾らない言葉を佐久間へむけた。当然、佐久間からすれば「こいつ、いきなり何言ってんだよ」状態なのだが、サッカー部一の天然男は全く気付かない。気付いていたとしても、さほど気にすることでもないのだろう。

「おまっ……頭の中、大丈夫か?」
「俺は、平気だよ。ただ、なんとなくそう思っただけだ」

 深い意味は無いらしい。

「ふと思ったんだが……佐久間にはいっつも、助けてもらってるだろ? だけど、こう毎日一緒にいるとさ、なかなかこういう言葉って言いづらいから。今なら言えそうだったし」

 皆で強くなろうと、切磋琢磨しながら練習に励んできた毎日。その中でも特に佐久間と源田は、よく一緒に練習していた気がする。ポジションの関係もあるのだろうが、なにより人間としての相性が良かったのだろう。
 今ここでそんなこと言うなんて、源田らしいよなーと思いつつ、照れくさい言葉を平然と発していることに反感を覚えた。源田だからこそ出来るのであって、自分じゃ到底できないだろうから。

「だから、ありがとな。佐久間」
「……そうか」

 一通り満足したのか、源田は嬉しそうに笑み崩れた。が、その横を猛スピードで何かが飛んでいく。モノクロの物体は、遥か遠くまで転がっていってしまった。呆然とする源田。佐久間は悪びれる様子もなくぼやく。

「ちょ、佐久間!?」
「悪い悪い、力の加減を間違えた」
「棒読みで謝るな!」

 ぶつぶつと文句は言いながらも、しぶしぶボールを取りに向かう。自分で取りに行け、などと怒鳴らないところが彼らしい。流石、源田だよなーと自分の中で呟いた。見慣れたはずの帝国ユニホーム、「1」の背中を眺める佐久間。

「……それは、俺の台詞だろ」

 弱々しく呟かれた佐久間の本音。恐らく、この言葉が源田に直接言い渡されるなんてことは有り得ないであろう。長い期間をともにした相手だからこそ、言えないのだ。素直になれないわけじゃない、俺と同年代の中学生なら当たり前なんだ。そう、自分に言い聞かせるように繰り返すと、大きく跳ね上がったサッカーボールを、ポンとノーバンで蹴り返した。