二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 見失った、忘れちゃった。 ( No.110 )
- 日時: 2011/03/06 17:15
- 名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: uXqk6hqo)
同じフィールドで戦っているとは思えないほど、小さく弱々しい背中。いつも以上に縮こまっているせいか、余計に華奢に見えた。ぐっしょりと濡れた肩は、小刻みに震えている。原因が冷たく降り注ぐ雨のせいなのか、はたまた、どうしようもない恐怖感なのか、俺には理解できなかった。わかってやれるはずが、無かった。まだ、出逢って日の浅い俺如き、こいつの過去も癖も夢も、何一つ訊いたことが無かったから。言い訳だなんて、わかっている。でも今は、そんなことに思いを馳せている場合では無いのだ。
彼女は、膝に顔を埋めたまま、上げようとしない。
「ごう、え、んじさ、ん」
途切れ途切れに発せられた声は、辛うじて俺を呼んでいるのだとわかるほど、小さく、震え、掠れていた。一瞬、揺れる背中を撫でてやろうと飛び出た腕が、戸惑いからか宙を泳いだ。ここまで自分の弱さを露わにしているところを、俺は見たことが無い。春崎は、いつも笑顔を絶やさず、どちらかと言えば悩みを抱え込まないほうだと、俺は勝手に解釈していた。
現実は、真逆で。
春崎に、泣きそうになるほど辛い悩みがあるなんて、誰も気付いていなかった。ただ、それだけで。監督にもマネージャーたちにも、円堂にさえ、この話題を持ち出すことは無かったそうだ。理由の一つは、自分に時間が残っているからと、言い聞かせた面もあったのだろう。そしてもう一つ。春崎には、欠けているものがあったのだ。
「わ、たし」
悲痛すぎる声色に躊躇など忘れ、濡れた髪にそっと触れる。拒絶されるのではないかと、緩く握った拳を眺め、改めて感じたが、予想とは反していた。それに、今、春崎に必要なのは……吹雪の人格崩壊によって欠けた、心の隙間を埋めてやることだから。
吹雪が戦意喪失にまで落ち込んでしまったのは事実だ。が、春崎が原因とは考え難い。いや、有り得ない。俺から見ても、春崎は充分、吹雪の支えになっていた。人格崩壊は、来るべき時だったのだろう。自分が原因なのだ、などと言う嘘偽りで塗り固められた現実。何故、疑わないのだろうか。信じてしまうのだろうか。少しくらい否定し、拒み、撥ね付けてしまえばいいものを。"甘える"という行為をしらないのだろうか。お前はもう、立派な雷門イレブンの一員だ。仲間なんだ。だからこそ、頼っても良かったのに。誰も迷惑だなどと、言うはずがないのに。
刹那、薄桃色の瞳から流れ落ちた一筋の光。その光が、唯一見せたSOSであることに俺はまだ、気付けない。大人になりきれていない、所詮中学生如きが、衰弱し切った彼女を救うことは——見失ったものを共に見つけ出すのは、不可能なのだろうか。
( 私は、何処? )