二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

そんなきみが好きな理由 ( No.113 )
日時: 2011/03/02 18:19
名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: uXqk6hqo)
参照: "弱虫モンブラン"の男性視点的なアレは神。関係無いけどw

「玲名、大好きだよ」

 私と同じ年頃ならば、この言葉を聞いて頬や耳朶を紅潮させるのが普通なのだろう。先に言っておく。私は、自惚れているわけではない。確かに、初めて伝えられた時は、どうすればよいのかわからず、まともに顔を合わせられなくなった場面もあった。しかし、こんな甘言も何度も言われると、価値は日に日に減っていくのだろう。数え切れないほど、言われ続けられたこの言葉。今ではもう、何も感じることができない。嬉しさも恥ずかしさも、何処かへ置き忘れてしまったかのように。何も何も、感じない。最も、今尚ヒロトが意味を持って言っているのならば、少しばかり可哀想な気もするが。

「……そうか」

 二人しかいないこの空間で、無視をしても居心地が悪い。一言返してやると、ヒロトはさっきよりも私に近い位置にいた。目元は優しく細まり、唇の端は二ッとあがっていた。つまり、あの笑顔を私に向けているわけで。特別素敵なことでもないが、嫌なわけでもなかった。もう慣れてしまったから。

「玲名は、俺のこと、どう想う?」
「……だいっきらいだ。お前なんて」
「そっか……」

 笑みは消え、残念そうに俯き、私の隣に腰を下ろす。学習能力が無いわけではないのだろうが、こいつは心底馬鹿だと思う。ヒロトが私を好きだと言えば、私はヒロトを嫌いだと言う。当たり前になったやり取りの中、何を期待しているのだか、私が大嫌いと言うと、ヒロトはいつも残念そうに微笑むのだ。この先、何があろうとも——例え、ヒロトに二度と会えなくなるとしても——私がお前に、好きだと伝えるはずがないのだ。理由は一つ。ヒロトが、嫌いだから。

「どうしてお前は、私が好きなんだ?」

 "好き"の理由は様々だ。恋情、友情、相性。ヒロトの言う"好き"が、どこに分類されるのかは知らないが、せめて理由は訊いておきたかった。深い意味などない。ただ、興味があるだけ。

「じゃあ、どうして嫌いなの?」

 何を言えばいいのか、わからなかった。こう訊き返されたのは、初めてだったから。当たり前だろう。こんなこと、訊いたことがない。
 私は、ヒロトを好きではない。照れ隠しなどでは無く、純粋にそう思うのだ。嗚呼、私はこいつが嫌いだなと。しかし、極端に拒むようなマネはしたことがない。好きではないから、嫌いなだけ。ちっぽけな理由なのに、簡単なことなのに。理由の意味を尋ねられたら、答えられないなんて。
 即答できなかった開きかけの唇は、何一つ伝えずに、きゅっと結ばれた。
 それならばもし、私がお前を好きだと言えば、お前は私を嫌いと言う?

「俺のこと、大嫌いな……———そんな玲名が好き」

 晴れやかな笑顔で、意味不明なことを呟いて。どうして、なぜ、私はヒロトを嫌いになったのだろう。いや、好きでいた時があったのだろうか。わからない、わからない、わからない。泣いても叫んでも、答えがでるはずないのだろう。まあ、こんな疑問如きの為にそんな無意味な行為、するはずないが。自分を嫌いなやつが好きなんて、こいつはとんだ変わり者だ。

「……そーゆうとこも、大好き」

 いつもと変わらぬ笑みを浮かべ、にこやかに私を見つめてくるヒロトを、ただ呆然と眺めていた。なんでこんな奴を嫌いになったのだろうか。少しでも好きでいられたら、二人で過ごす時間も、そこまで苦痛では無かったのではないだろうか。ヒロトのせいで私は、また少し、自分を失ってしまった、そんな気がしてならない。