二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

 追憶プリズナー ( No.118 )
日時: 2011/02/25 18:38
名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: 8pbPlA7p)




 その記憶とは、ふとした時に蘇るのだ。サッカーボールを受け取ったとき。遠くから仲間に大声で呼ばれた時。励まされる笑顔を向けられた時。プレイをミスした時。悔しくて情けなくて、どうしようもない時。茜色のライトを浴びた、無人のゴールを眺めている時。無数に瞬く、幾らでも代用の利く、あの星空に気付いた時。きっかけなど、辺りにいくらでも転がっていた。過去の記憶など、忘れられるはずが無かった。どこまでもどこまでも、憎らしいほど透明に映し出されるのだ。恐怖と驚愕が浮かぶ、哀れみの込められた数多くの視線。突き刺さった瞬間の痛みまでも、リアルに再現されるのだから笑えない。そんな時、自分は決まって、首元のユニホームを握り締めるのだった。こんな情けないこと、誰にも相談できない。あの日のことが忘れられないんだ、サッカーが怖いんだ、なんてさ。

 忘れられるはずがない。忘れてはいけないのだ。泣きそうな瞳で、自分を見つめてきた多くの人々を。自分に向けられた、あの表情を。恨みを。全てを。あの記憶を受け入れなければ、自分はいつまで経っても、今のままなのだから。変わることが出来ないのだ。わかっている。わかっているだけで、実行できていない。嗚呼、だから俺は弱いんだ。ちっぽけで、軟弱で、孤独を拒否し続けて。

「俺は本当に、弱虫だ」

 ——そんなこと無い。
 そう言って貰えたら、きっとどんなに楽なんだろう。でも自分に、慰めてもらえる権利なんか、無くて。あの時は、あんなに幸せだったのに。幸せに浸ることなんか簡単だったのに。今じゃこんなに、悩ましい。俺はきっと、いつまでたっても———あの日の記憶に、囚われたままなのだろうか? もういっそ、あの日に戻って、一期だけの幸せに酔い痴れたほうが、良いんじゃないだろうか。


   ( きおくのじゅばく )


*。+
ポニテのどっちか予定してたらこんなことに……