二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

江戸もの〜w ( No.124 )
日時: 2011/03/04 21:33
名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: uXqk6hqo)


   第十二話【ここに開幕、大江戸合戦!】

「えぇぇぇぇ!? ちょ、なんでさっきの女の子が!?」
「さっきの少女剣士さんじゃないですか!うわぁ、お会いできてよかったです!」

 満面の笑みを浮かべ、それはそれは嬉しそうに葵の手を握る少女。彼女も、ここ『菓子屋 雷雲』の看板娘の一人である。春奈、秋、夏未、冬花の四人が手作りの菓子を並べているお店で、手頃な価格と菓子の美味しさで巷では人気な店の一つであった。ちなみに今は不在だが、店長は人と必要以上に関わろうとしない姿勢が多くの人の憧れになっている、瞳子である。
 一方、手を握られている葵はと言うと、やってしまったという表情で硬直してしていた。いきなりの急展開で、どうすればいいのかわからない。いや、既にあの剣士たちには、自分の正体がばれているようだ。人の間違いを見つけて喜んでいる、そんな表情である。

「葵さんの知り合いですか?」
「し、知り合いじゃないよ。ただちょっと見たことある人に似てて……そう、人違いだよ、うんうん。初めましてですよね?」
「何言ってるんですか?だって、貴女はさっきの……」

 葵の切羽詰った表情に気付いたのか、春奈は言葉を飲み込んだ。自分が何か悪い事を言ってしまったのか。上手く回らない頭をひねり、必死に考える。

 が、とき既に遅し。

「……さっそくだが、刀を握るようになった経緯を教えて貰おう」
「さっきまで黙ってたくせに! 卑怯者!」
「俺も豪炎寺さんと同じ意見です!」
「余計に人数増やすなっ!お前だって暢気のお茶飲んでたくせに!」

 面白そう、と円堂も参加する。神にも縋る気持ちで桃花を探す。が、視界の隅に映りこんだのは、新たにやってきた女性店員(冬花)を含めた五人で楽しそうに井戸端会議を行っている桃花の姿だった。
 無理やり畳に座らされ、言葉を促される。絶対に話すものか。特に深い事情というわけでも無いが、自分がここまで追い詰められたことが悔しく、腹いせに意地でも言わないのだと心に誓う葵。桃花の位置が店の出入り口に近いことを確認し、必死に思考を巡らせる。ここはやはり、悪い事だとわかっていても、自己防衛ということで行ってしまおうか。

「さあ、言ってしまいましょう!楽になれますから!」
「僕は罪人かっ!」

 嬉々とした笑顔で笑う虎丸。思いっきり罵ってやりたい衝動を堪え、ただ静かにこれからの展開を考える。自己防衛、自己防衛、自己防衛。身を守るためなのだ。よって、意義は受け付けない。

「あ———っ! あんなところに、殿様ご一行が!」

 背側にあった窓を指差し、行き交う人の姿しか見えない外に向かって叫ぶ。あまりの大声に、殿様ご一行の行列など有り得ないとわかっていても葵を追い詰めていた少年たちの身体が勝手に、本能的に動いていた。
 今しか、ない。

「……じゃあ、またいつか会おう!」
「え?あ、えっと、お元気で!」

 隙を見て逃げ出した葵。桃花の左手首を掴み、暖簾を払いのけ、人ばかりの通りを駆け抜けて行った。肩と肩がぶつかり合い、腕に思い切り顔を埋め——大人と子供の身長差故に仕方が無いのだが——かなり痛い思いをしながら、当ても無く走り続ける。桃花には、適当な言い訳をすれば許してくれるだろう。暢気にそう考え、対照的に身体は俊敏に走らせると、賑わう江戸の町へ溶け込んでしまった。こうなると、ほとんど見つからない。
 開いた口がふさがらない少年少女たちは、呆然と、小さく揺れる暖簾を眺めていた。その後、剣を所持する少年二人は逃げられた不甲斐なさからか、耳朶を紅く染めていた。反射神経には自信があった二人は——江戸で一位二位を争う技術を持ち合わせているため、今まで捕らえた人に逃げられた経験が無いのだ。なのに、あんな子供だまし(社会全体から見れば、自分等も充分子供なのだが)に引っかかり、結果、逃げられた。久々に、剣士としての闘争心に着火する。お遊び気分の円堂、巻き込まれた鬼道、吹雪は豪炎寺、虎丸らと円陣を組み、無理やりながら誓わされる。

「あの少女剣士を捕まえる。全力でだ……」
「おう!頑張ろうぜ!」

 目的も知らずに返答をした円堂。ちょっとしたお遊び程度なのだ。一部の人間とは、ひどく温度差がある。が、掲げた目標は皆同じ。少女二人らの捕獲なのだ。

「行くぞ!」

 呆れ気味の看板娘たちを残し、少年たちは出陣を果たした。追われていることを知らない少女たちを、心の奥底で哀れみながら。

 今ここに、江戸の町を舞台にした戦いが幕開けしたのです。逃げる二人に追う五人。さて、勝利はどちらの手に?