二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 【09】巡り合わせと呼ぶのです-01 ( No.132 )
- 日時: 2011/03/04 22:12
- 名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: uXqk6hqo)
「かーんーとーくー」
「どうした」
「帰りたいです」
自分でも相当怖い顔してるなーとか思いながら、キッと監督を睨みつける。でも、まったく効果は無くて。ははは、と笑って流された。スルーだよスルー。監督は本当に酷い。僕の話、絶対聞いてないと思う。
「おつかいが終わったら解散だ」
「監督が一人で行けばいいじゃないですかぁ。いい歳して」
左手で持っていた紙袋を、右手に持ち替えた。ビニール製の紐が手の腹に食い込んで、ちょっぴり痛かった。中身は一体、何なんだろう。すっごい気になるんだけど、覗いたら覗いたで怒られるだろうから、言わないことにしておく。
そう思っていた僕だけど、勝ち誇ったかのように笑う監督を見て、やっぱり何か言い返したくなってきた。特上の皮肉を捧げようとか無駄な思考を巡らせていたら、監督は突然立ち止まった。つられて僕も立ち止まる、というか監督にぶつかりかけて止まる。左手で前髪を直しながら、何気なく見上げた目的地。一瞬、驚きからか言葉を失う。そして、気が抜けた。予想通り、いや、予想以上だ。
「ここが……———雷門中だよ」
大きな稲妻マークが視界に飛び込んでくる。夜桜の倍はあるんじゃないかと思う大きな校舎が、午後の柔らかい陽射しを浴びて、堂々とたたずんでいた。おお、カッコいい。
「じゃあ、早く雷門の……響木監督に挨拶して帰りましょうよ!」
練習試合のお礼をするべく、部活の時間を潰して雷門を訪れた僕と監督。いや、普通に考えて順番、逆じゃないとか言っちゃダメ。気にしたらお終いだもん。この監督と付き合っていく上で、これが一番重要。深く突っこんだらアウトなのだ。
「……にしても、おっきいですね、この校舎。部室も大きいのかな?」
「部室はボロボロらしいぞ。お前、知らないのか?」
「えー……まあ。そーゆうの、あんまり興味無くって」
適当に返事を返すと、昇降口を探す。適当って言ったって八割方、本当のことだし。
今の僕たちは、良く言えば来客、悪く言えば不法侵入者だ。変な行動を取ったら、夜桜の噂も悪くなるし。まあそんなことはどーでもいいんだけどさ。さっさとおつかい終わらせて、家に帰らなきゃいけない。部屋に着いたら、すぐにDSを開いてマイベストパートナーの経験値を上げてやらなければ。
「あのー、……何か御用ですか?」
「はい! めっちゃくちゃ御用ですっ!ってあれ?」
大人びた声に呼ばれ反射的に振向くと、可愛い制服が目に飛び込んできた。雷門中の制服って、やっぱり可愛いよなーとか思ってみたり。だって、夜桜中の制服は、堅苦しいんだもん。ブレザーには、学校の校章がエンブレムとして縫い付けてある。襟元を締め付けるのは、僕の最大の敵であるネクタイ。毎朝、こいつに苦戦してたり。でも、タータンチェックのスカートと黒のソックスは気に入ってるから良しとしよう、うんうん。
「あら、貴女は……」
そうじゃないそうじゃない。僕が声を掛けられた人物は、初対面では無かった。サッカー部との練習試合のときだ。彼女は、そう。確か名前は……雷門夏未。あれ、学校と同じ名前だ。
「お久しぶりです、マネージャーさん」
「ちょっと響木監督のところまで案内してもらえないかな?」
「……ええ、わかりました。では、こちらへどうぞ」
ただいま、部活真っ最中の時間帯。サッカー部も練習があるだろうに、なぜ彼女がここに? でも、苗字が学校と同じってことは、それなりの地位にいるんだよね。多分、さらっと訊いた話では、理事長さんの娘だったかな?
でもとりあえず、そんな質問は置いといて。重い荷物を左手に持ち帰ると、監督と夏未さんの背中を追いかけた。若干汗ばんだ右手を開き、スカートに擦り付ける。同時に、パンパンとゴミを落とし、スカートのしわを伸ばすと、大きく息を吐いて歩き出す。さあ、これで帰れる、と。