二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 【09】巡り合わせと呼ぶのです-02 ( No.138 )
- 日時: 2011/03/06 16:59
- 名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: uXqk6hqo)
連れられて来たのは、結構広い一室。今から監督を呼んできます、と言って夏未さんは部屋を出て行った。座り慣れないふかふかのソファ。何度も何度も姿勢を変えているうちに、みっともないと監督に小突かれた。監督だってそわそわしてるじゃん! とか思ったけど、言ったら言ったで面倒だから黙る。誰か、この居心地の悪い沈黙を破って下さい!
「お久しぶりですね」
よし、来たぁ!
「おお、こちらこそ。お忙しい中、すいませんね、響木監督」
響木監督の後ろには、夏未さんの姿もあった。っていうか、何で僕、帰ってないんだろう。すっごいKYなのは承知した上で、こっそり立ち上がる。が、呼び止められた。
「なあ、藤浪。折角の機会なんだ、雷門の練習に混じっていかないか?」
「……え?」
響木監督直々のお誘い。嬉しいんですけど、早く帰りたいので失礼します。……とは到底言えず。
なんかこっちの監督も有難い、とか言っちゃってるし。待ってよ、僕の意見は採用されないの? 酷くない? 一応、学校帰りっていうことで体育着はある。ユニホームは洗濯中だから持ってきてないけど。サッカーやろうと思えばやれるわけで。条件は揃っている。足りないのは、僕のヤル気だけ。
「あー、でも……、いきなり混じったら迷惑ですし」
「円堂くんは、貴女とまたサッカーしてみたいって張り切ってたわよ」
「お、お気持ちだけ受け取っときます!」
多少強引に言葉を遮り、ペコッとお辞儀すると部屋を出て行った。後ろから、僕の名前を呼ぶ夏未さんの声が聞こえたが、振り切ってしまった。サッカーは好きだ。でも、僕はきっと、あの空気の中に馴染めない。片身が狭い思いをするのだろう。だったら、さっさと帰りたいし。監督が良いって言ったんですよ、おつかいが終わったら解散だって。僕は、無実だし。久しぶりの休みなんだ。ゆっくり休みたいよ。
広い校内に戸惑いながらも、来た道を引き返していった。
*。+
「まったく……どうして下駄箱行くまでに、こんな疲れなきゃいけないんだよ……」
溜め息と一緒に、吐き出した言葉。爪先をとんとん、と地面に叩きつけ、靴をしっかり履く素振りをする。紐靴は、ちゃんと一回一回結ばなきゃいけないんだけど。そんなの、個人の自由だもんね!
広々とした雷門の校庭。陸上部に野球部、色々な部活動がそれぞれのスポーツに向かって励んでいた。さすが雷門中。夜桜とは桁違いの規模。
あ、あんなところにはオレンジ色のバンダナ付けた少年がサッカーボール片手に……あれ?
「げ……円堂守だ」
そーだよね、サッカー部もいるよね。だったら早く帰らないと。見つかったら、当然のように練習に誘われるだろうし。違う学校だから有り得ないだろ、と思うでしょ? サッカーバカには、学校も場所も関係ない! サッカーボールさえあればサッカーできる!……らしいから。情報元、夜桜中新聞部。
さあ、早く帰ろう。僕なら大丈夫だ。円堂と目なんか合ってない。名前なんて呼ばれてない。「サッカー、やろうぜ!」なんて言われてない、言われてないんだ! 円堂の大声のせいで、たくさんの生徒から注目されてるとか、そんなわけじゃないんだから!
「あーおーいー! そうだろー? 葵だろー?」
「違う違う、あれは僕を呼ぶ声じゃないんだ。空耳なんだよ、葵」
必死に自分に言い聞かせる。どんどん早くなる歩調。あくまでも気付かないふりなんだ、何にも聞こえないんだ。……けど。
なーんか気配感じて、念のため振り返ってみる。刹那、僕の視界にいきなり飛び込んできたのは、———白黒のサッカーボール。とっさに身体が反応し、姿勢を変えるとサッカーボールを受け止めた。正確に言えば、"受け止めてしまった"のほうが正しい。人間、自分の意思に反して身体が動くなど、珍しいことではないのだ。本能、故に仕方が無い。それは、よーくわかっている。でも出来れば、僕は僕自身の本能を呪ってやりたかった。あーもー僕のバカ! 腕に抱いたサッカーボール。もう、どうしようもない。
「やっぱり葵だ! 葵ならキャッチしてくれると思ったぜ!」
「どんな根拠で人に向かってボール蹴ってるんだよ!」
円堂に向かってボールを投げつける。少しよろけた円堂。が、きちんとした構えでボールを抱きなおすと、満面の笑みを僕に向けた。皮肉なことに、こんな時ばかり僕の本能が危険信号を発信する。もう遅いって。
僕の心境に気付いてた気付かないのか———恐らく、気付いていないであろう円堂は、無邪気な笑顔を顔に浮かべ、何の迷いも無く僕に言った。
「葵、サッカーやろうぜっ!」