二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

【09】巡り合わせと呼ぶのです-04 ( No.152 )
日時: 2011/03/16 17:11
名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: 2lvkklET)
参照: 結論:佐久間は眼帯取っても可愛い男前。




 肺をぎゅうっと握られているかのように、呼吸は浅く、そして苦しい。すぅと思いっきり息を吸ったが、それでも楽になれなかった。僕、過呼吸にでもなっちゃったんじゃないかなってくらい苦しい。うう、自分の体力不足が目に見えてわかるよ。あーあ、ちゃんと外周走っとけば良かった……と言うか、このメンツの中でよくサッカーしたよ自分。スタミナ足りないのに、よくついていったよね。とりあえず自分に拍手だ!
 誰もいないベンチに腰掛け、大きな溜め息を吐き出す。雷門イレブンは、まだまだサッカーし足りないらしく、今も尚練習中……男女の差を見せ付けられた気がするな……

「葵さん、あのー……これ、どうぞ」
「え……?」

 差し出されたのは、濃い黄色のボトル。お礼もそこそこに受け取り、がぶ飲みする。ゴクゴクと音をたてながら飲んでいくスポドリ。乾いた喉がようやく潤って、ぷはぁと息を吐き出した。
 そこで初めて、自分がガン見されていることに気付く。ペコッと浅く首を動かし、「ありがとうございます」と付け足した。

「ゴメンね。円堂くん、サッカーになると本当に夢中になっちゃって……止められないんだ」

 関係のないマネージャーさん(多分、秋さんだったと思う)に謝られてる僕。きっと悪いのは……と言うか、円堂がサッカーバカなのは仕方が無いことだし、それは円堂の個性であり長所なのだから、謝る必要は無いと思うなぁ。新聞部から聞いたけど、そんなキャプテンに幾度と無く救われてるメンバーもいるようだし。第一、僕はそこまで迷惑してないもん……とまでは、言い切れないな。

「大丈夫ですよ! 僕も楽しいですから!」

 僕、偉いなぁ……人を気遣えるなんて。

「藤浪はいつも真面目にやらないからな、良い運動になっただろ!」

 いきなり、絶対に女子のものではない声が、後ろから降ってきた。声変わりしてるし。いやいや待て待て自分。この声、僕が一番よく聞いてるじゃんか。

「か、監督っ!? なんでこんなとこにいるんですか?」
「いやあ、ついつい話が盛り上がってな。今、帰るところだ」

 そろそろ僕も帰ろうかなー……あんまり遅くなっても、お互いに迷惑だろうし。うんうん、帰ろう!
 スクッと立ち上がり、ふと円堂のほうへ視線を向けると……なんかすっごい盛り上がっていた。いいな、あーゆー雰囲気。すっごい仲良さそう……チーム一丸みたいな一体感、羨ましい。和気藹々とする会話が時折、僕にも聞こえてくる。森本は左上のコースが苦手だとか、飯島はピンチになればなるほど直球勝負っぽくなるらしいだとか、カレンを抜きたかったら揺さぶりを掛けると素直に迷うだとか、夜桜の弱点が赤裸々になってて……え。

「なるほど、次の試合はこのポイントを押さえれば勝率が上がるのか……」

 ぽつりと呟く天才ゲームメイカー。いやいや、あんたに作戦立てられたら夜桜は勝ち目無いって。自分でも顔が真っ青になっていくのがわかる。額に冷や汗が流れたが、拭うどころじゃなかった。すぐさま監督を睨みつけ、真相を自白するよう目で訴えかける。唇をきゅっと噛み締め、監督の言葉を待った。苛立ちからか、無意識に地面を蹴る。そのせいで爪先が少なからず痛かったけど、パニックのせいで、落ち着くことができなかった。

「夜桜イレブンのやる気が上がるようにな、弱点を全て把握してもらった」
「バカですか監督」
「ははは、これも藤浪たちの為だからな」

 悪びれる様子も見られず……溜め息ばかりがあふれ出す。ああもう、監督が僕と対等の立場だったら、殴ってたかどうかもわからないな。基本、人に対してあまり怒らない僕だけど、今回は抑えられない。
 ……なんて意地を張ったところで、円堂たちが僕等の弱点を忘れてくれるはずがないし。今度は呆れた溜め息が零れた。明日、朝練のとき皆に忠告してあげよう。どんな反応が返ってきても、僕に責任は無いんだ!

「よーし! 次は藤浪の弱点について話してやろう!」
「キャプテンの弱点か……」

 ……え?

「あ、ちょ、監督っ!?」
「藤浪はディフェンスがド下手だからな。狙うならこいつだぞ」

 おぉ、と雷門イレブンから声があがる。あーもー僕知らないから!監督が勝手に暴露したんだからね! 僕は止めたからね?

「でも、夜桜で一番厄介なプレーヤーも藤浪だ」
「…………?」

 監督の表情は、どこか誇りに満ちていた。なんで監督が胸を張ってるのかはわからないけど……、ここまで暴露されたら、もう引き返せない。時間が経っちゃってもいいから、監督の話を全部聞いてみよう。ヤケクソになりかけてる僕の、唯一の冷静な判断である。