二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

【江戸物語】-哀しき旅人 ( No.158 )
日時: 2011/03/25 20:02
名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: aBT3sVDq)
参照: 今回から一話がめっさ長くなります。




 太陽が、だんだんと高い位置へ上っていく。時折、南のほうから吹いてくる暖かい風が、ふんわりと少年達を撫で、名も無き遠い町へと去っていった。橙色の瞳にかかった水色に近い髪を、少年が空いているほうの手で耳にかける。極自然に行われた行為だが、隣の少年は小さく吹き出した。途端、笑われた少年が鋭い視線で相手を睨みつける。

「なんだよ、突然」
「悪いな、なんだか今の佐久間、本当に女っぽくて」
「余計なお世話だ」

 憎まれ口を叩きながらも、佐久間と呼ばれた少年は歩みを進める。置いていかれた少年は、「悪い悪い」と平謝りを繰り返している。佐久間の隣まで駆けて行き、再度「ごめん」と謝った。対する佐久間は、特に許したような素振りも見せず、ツンとした態度のまま、表情を変えない。女らしい、と言われることが何よりも嫌いのようだ。

「そろそろ関所だぞ。あと半刻歩けば、江戸につくな」
「わかりきっている情報をどうもありがとう、源田」

 源田は、然程怒ったような表情をせず、"これでお相子だ"と笑っていた。が、その後二人の間で会話らしいことは一切無く。まだ機嫌の悪い佐久間と、江戸への期待を膨らませる源田。二人の少年は、黙々と歩き続けた。
 涼しいそよ風が、田の稲穂を揺らし、のどかな田園風景に華を添える。地面と睨めっこを続ける百姓が思わず二度見をしてしまうほど、珍しく、そして恐ろしい武器が、その平和な風景をぶち壊しにしてしまうことだけが、残念で仕方が無い。

「源田、お詫びにこの槍、持て」
「弓矢だって重いんだ。男なら自分で持つんだな」
「……なんだよ、こんな時ばっかり」


*。+

 同時刻、江戸の町にて。

「桃花さん、やっぱり上手ですよ! 本当に経験、無いんですか?」
「そうね、私も初めてとは思えないわ……私より上手かも」
「これでだいぶ、個人の負担分が軽減されるわね!」
「その腕なら、当分、雷雲に居候して構わないですよ」

 店の看板娘四人に褒められ、普段照れることが少ない桃花も嬉しそうに頬を赤らめていた。

 ここは、葵と桃花の居候先に決まった『菓子屋 雷雲』の調理場である。部屋を貸し与える代わりに、仕事分担をすることになったのだが、どうやら桃花は、従業員として大いに働いてくれそうだ。"雷雲"の文字が描かれた前掛けが、やけに似合う。人見知りしてしまう癖もあるが、基本的には大丈夫そうなので給仕人としても活躍の見込みがある。桃花は、雷雲にとって大事な人材になりそうだ。簡単に他人を褒めたりしない瞳子店長までもが、彼女の手際の良さを褒めている。

 対するは、葵の不器用さだ。
 幼い頃から剣術の手ほどきを受け、女に必要である一般的な教養に経験の無い葵にとって、料理など持っての外なのであった。給仕人としては使えそうだが、態度の悪い客に喧嘩を売ってはいけない。そう夏未が伝えると、葵は真っ先に辞退したらしい。雷雲に部屋を借りてから早一日。彼女に与えられた仕事内容は、"掃除"と"買い物の荷物持ち"のみだ。

「自分の不器用さは把握してたけど……ここまで使えない奴だと、僕でもへこむなぁ……」

 店先の掃除を任されていた葵は、溜め息をつきながら独り言を漏らした。たくさんの人が駆けるような速さで横切っていく通り。最初は珍しいのだが、十分も経てば飽きるものだ。落ち葉さえ無い綺麗な町が、逆に恨めしく思えてくる。一刻ほど前から絶えず聞こえてくる、桃花を賞賛する声が主な原因なのであろうが。葵は再び、大きな溜め息を盛大に吐き出すと、気分転換に青空を見上げた。混じりけの無い純白を保つ雲が、のんびりと空に浮かんでいる。

「何か面白いこととか……そーだな、懐かしい出会いとか起きないかなぁ」

 彼女の何気ない呟きは、青空に吸い込まれるようにして、脆くも儚く、消えていったのだった。



 +あとがき(っていうか報告!)+

はい、帝国二人組編がスタートしました!江戸時代ベースだし、リアリティを大事にしたいので、素朴な感じを書き表したいとか思ってます。まあ、無理だけどね☆←

そこで一つ、お知らせなのですが……

参照にも書いたように、一話を長くしたいと思います。ようするに【夜桜よ、咲き誇れ】みたいな感じになりますってことです。
どーでもいいお知らせ強制終了ですw
この回で葵ちゃんと桃花ちゃんを江戸っ子に馴染ませたいとか思ってるので、アドバイス等、よろしくお願いします。結構、切実です(