二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

【江戸物語】-哀しき旅人 ( No.171 )
日時: 2011/04/05 19:48
名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: Ph3KMvOd)



 しばしの沈黙。数秒間、佐久間と葵は見つめ合うとキッと視線をきつくした。詳しく言えば、佐久間の厳しい視線に葵が押されている。まるで、蛇に睨まれた蛙のようだ。
 刹那、カチャリと槍が揺れ、光の速さの如く、一直線に向かっていく。動き出したのは、佐久間だった。

「貴様……ここで会ったが百年目! 今こそ、決着を付けさせて貰うぞ!」
「あ、あの時は悪かったって、謝ってるでしょ! ……ってうわあああああ!」

 葵の上を取り、槍の柄を葵に押し付ける佐久間。その攻撃を防いでいるのは、今にでも割れてしまいそうな箒だった。さすがは刀を握る者、とでも言うべきか。反応だけは、人並み、それ以上はありそうだ。
 が、箒は戦闘に使用する物では無い。第一、箒対槍の勝負などあってはいけないのだ。槍側の名誉に傷が付く。しかしこの少年は、そんなことお構いなしで葵に攻撃を仕掛けていた。可哀相に葵は、それら全ての攻撃を箒で防いでいる。

「み、みしみし言ってるよ!? 箒、壊したら夏未に怒られ……」

 和解を求める葵に対し、佐久間の攻撃は激しさを増していく。みしみし、という不気味な音が、命懸けで逃げている彼女の耳に鮮明に届いた。その時、頭を過ぎったのはかんかんに怒った夏未の表情。残念ながら、葵に"死"という恐怖は植えつけられないらしい。恐るべし、雷門夏未。

「お前のその脳みそに、"後悔"という言葉を刻み込んでやる! 覚悟しろ!」
「僕の人生は、後悔ばかりだから余計なお世話です……って、だから攻撃しないでよ!」

 周りの野次馬達も唖然としている。逃げることさえ忘れて、この理不尽な戦いに見入っていた。春奈は面白そうに、戦いを眺めている。鬼道は呆れたように、が楽しそうに微笑んでいた。どこまでも恐ろしい男である。がしかし、佐久間の連れである源田は、何を見てそう思うのか「平和だなぁ……」と和んでいた。
 一向に治まることを知らない戦いに終止符を打ったのは、修行がてらに江戸を守る剣士だった。黒い影が二人の間に入り、嫌な金属音を響かせる。葵が恐る恐る目を開いてみると、驚愕の色を浮かべている佐久間と自分との間に、交差された銀色の光が見えた。驚きのあまり、思わず短い奇声を発する。

「箒の女の子に襲い掛かるなんて、大人気ないですよ! 旅人さん」
「……箒で対抗する前に、"逃げる"という選択肢が浮かばなかったのか?」

 目の前に現れたのは、挑発気味の笑顔を浮かべる虎丸と、呆れ顔をしている豪炎寺だった。