二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

 零落輪廻 【鬼道/帝国】 ( No.216 )
日時: 2011/06/06 18:27
名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: EUu3Ud2H)




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「俺には、」
 わからないんだ。普段の冷静な鬼道からは、想像がつかないほど弱々しい声色。帝国学園サッカー部キャプテンである彼が、天才ゲームメイカーと評される鬼道にもわからないことはあるのか。心中で呟いた葵は、口元だけでうっすらと笑う。人が悩ましい表情をしているのに、不謹慎すぎると自分に叱咤を飛ばすと再度、ゴーグルの向こうに浮かぶ紅い瞳を見つめる。対照的な紅と蒼は決して交じり合おうとしない。今までもそうだった。葵と鬼道はお互いに愛想笑いさえ見せたことが無くて、上辺では普通に接しているものの、信頼を寄せているかはまた別で。少なくとも、鬼道が葵に頼ったことはない。可笑しいね、そう思うと唇が自然と釣りあがる。変な優越感に溺れる前に、彼の話を聴いておこう。ただ静かに、目を伏せる。
「もう、何もかも」
 酷く憔悴しきった様子で、傍にあった椅子に腰掛ける。放課後の教室とは、こんなに静かだったか。窓から差し込む暖かな夕陽は、ほっそりとした鬼道のシルエットと床に落とす。茜と薄い桃色が混ざった夕焼け空は、哀しくなるほどに美しい。
「……僕を頼るほどのことなの? それ」
「、わからない」
「あー、あれか。何がわからないのかさえ、わからないってやつだ」
 静寂の二文字しか残らないこの教室に不釣合いなほど明るい、お茶らけた声。ただそれでも、鬼道は葵の瞳を見ようとしない。虚ろな深紅は、何も映していないのだろう。
 無様だね、そう一言返すと鬼道は顔を歪めた。自分でも情けないと思うまでの余裕は残っているようで、少し安心する葵。そこまで重苦しい悩み相談はまっぴらだ。頭を抱える同級生に一言、吐き捨てる。無論、それは心のうちの話だが。
「……何故、だろうな」
「ま、そんなんじゃ答えなんか見つからないだろうよ」
 ふいに鬼道が顔を上げれば、葵はにんまりと怪しげな笑みを浮かべていた。その時、煌く蒼い眼光が哀しく見えたのは気のせいか——溜め息を吐きかけて、鬼道は息を呑む。その微笑みは、自分が最も敬愛する人物に疑似していた。この疑問の終着点が見えた気がして、思わず手を伸ばす。あの人の影は、もう見えない。
「アドバイスにもなんないと思うけど、」
 焦点が定まらず、悄然とする鬼道に葵は、優しく笑いかけた。鬼道はまだ、あの人の影を求め続ける。
「ゴーグル外してみたら、見えるんじゃない?」
 曖昧な返事しか返さぬ鬼道に、葵は溜め息を零した。きっと彼に、自分の考えは伝わっていないのだろう。小さく肩が動いたのも、恐らくは幻覚だ。そう自らに言い聞かせ、自分で気付かなければ意味が無いのだから、と目で彼に訴えると、窓の外を見る。
 鬼道は何も間違っていないのに。何の悪戯が、彼を狂わせるのだろうか。空はどこか、物悲しかった。



鬼道さんと葵ちゃん。やんわりバッドエンド風味。
『ゴーグルを外して〜』っていうのは遠まわしに、"影山から離れろ"って言っている、つもり。
シリアスが楽しいと思っちゃうお年頃。ダメだツボる。きっと他のキャラでもやらかすよ皆逃げて!全力で逃げて!