二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

 +~漆黒アワーグラス~+ ( No.30 )
日時: 2010/12/24 18:12
名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: eMRX3Yay)

 初めは、ただ…信じられなかった。
 今、目の前で起きている"現実"が上手く飲み込めない。困惑と悲しみと——ほんの少しの希望。どうして、この状況で希望なんかが湧いてきたのか。感じるべきは"絶望"、ただ一色なのに。それは、きっと自分が…"弱いから"。ただそれだけなんだろう。


 ——+~漆黒アワーグラス~+


 本当は、気づいていた。どこか不安げで、元気が無い二人の姿に。でも、いつものように声をかける事が、今の今まで出来なかった。普段のように、自然に、普通に話を聞いてやる事が出来なかった。きっとそれは…あいつ等の雰囲気が、驚くほどに変わっていたからだろう。
 気づいた奴は、気づいているんだろう。面と向かって言っていないだけで。それだけ、今までよりも…恐ろしさを滲ませた雰囲気だったから。人って、こんなに変わるものなのかと思った。ただ…その原因がいまいちよく解らなくて、どう話しかければいいのか、何度も自分と相談した。…結局、話しかけられなかったけど。

 ほら、また言葉をかけられない。でも、さっきとは、事情が違う。だって…——

***


「…ど、どういう事だよ…なぁ、」
「円堂、経験はあるだろう?全く同じ事だ」

 冷酷な雰囲気を与える紅い瞳。豪炎寺は、こんなに紅い瞳をしていたか?黒い切れ長の瞳とは、ぜんぜん違う。こんな変化だけでは無い。全てが変わってしまっていた。"人"としても、"仲間"としても…同じ"サッカー"をプレイする者としても。
 故意に立てられたユニホームの襟が、普段より一層、恐ろしく…違って感じられる。

「鬼道まで…なぁ、どうしちゃったんだよ?二人とも」

 ひんやりとした空気の中、ゴーグルの奥から見据えられると、嫌でも背筋に悪寒が走った。後に残るのは、"恐怖"。ただ一つだけ。
 なぁ、俺に何をしろって言うんだよ。

「…強く、なりたかった」
「お前だって気づいているんだろう?今の力では、何一つ、守る事が出来ないと」

 ——守れない。

 練習をたくさんして努力すれば、必ず強くなれる。 俺は、皆にこう言って今日までサッカーをやってきた。最初は純粋に信じていたから。でも最近はどうだろう。誰の為にその言葉を言ってきた?ハードな練習に耐える仲間を励ます為?…そう、だよな?

「だって俺たちは、」
「円堂、お前だって疲れたんだろ?そうやって自分を騙し続ける事に」

 "騙す"…?何の為に?違う、絶対に違う。俺は、ずっと信じてた。純粋に、その言葉を。ずっとずっと…

「…見ていて解るんだ。お前が"自分"にそう言い聞かせている、と」

 言い聞かせている?そんな筈は無い。今までもそうして強くなってきたんだ。だから、これからも…そうやって努力していけば…良いんだよな?

「ち、がう」

 皆で強くなる為に。もっともっと、レベルアップする為に。…大切なモノを守る為に。だから強くなりたかった。
…今の俺じゃあ、守れない?

 仲間も、家族も、楽しい毎日も。
 弱虫のままでは。あんな綺麗事言ってるままでは。嘘で自分を固めて、言い訳しているままでは。

 "なら、守る為にはどうすれば良い?"

 "今すぐ強くなればいい"

 "どうやって?"

 "目の前の"闇"へ、手を伸ばせば良い"

 "…怖い"

「怖くて当然だ」

 一言、鬼道が呟く。静寂が広がる部屋に、その一言が響き渡った。円堂の脳内にも、響き渡る。
 闇を忍ばせた紅が、マントに映って靡く。

「でも、」

 黙っていた豪炎寺が口を開く。

「どんなに怖くても、俺達がいる」

 その言葉に円堂は、立ち崩れた。そして人が変わったように笑う。狂ったように笑う。歪みかけた絆が、円堂を壊してしまったのか。壊れてしまった少年は、自分を否定しながらも"闇"へと手を伸ばす。

                   〜トキ〜
        (少年ガ闇ヘ堕チル瞬間)