二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

剣士と少女と江戸の町っ!!〔new連載です!!〕 ( No.32 )
日時: 2010/12/20 19:31
名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: F3o31y5l)

  【序章】

 のどかな田園風景が広がる畦道に、その茶屋は建っていた。幼少の頃からの夢の為、一攫千金の為、人生の運試しの旅…様々な目的でこの道を通る若者達を、茶屋の主人は見守ってきた。江戸までの道のりは、まだあるものの急ぎ足で向かえば、然程疲れる距離では無かった。若者ならば尚更に。
 そして今、貸切状態のこの茶屋で団子とお茶を頼み、一息ついている少女たちも江戸へ向かう途中なのである。

「この餡子、すごく美味しいよ!!」
「もちもちしていて、絶品です」

 口々に茶屋の名物である団子を褒めていた。お世辞には見えない。そんな様子に、茶屋の主人も笑み崩れていた。
 誰だって褒められれば嬉しいものだろう。

「そうかい?それは、嬉しいねぇ」
「お婆ちゃん、ここから江戸までどれくらいかかりますか?」

 儚げな印象を持つ少女がお婆に聞く。爽やかな風が吹く度に頭に付けた——異国のものと思われる——髪飾りがしなやかに揺れた。
 お婆は刹那、その少女の微笑みに見惚れた。

「そうだねぇ…もう少しじゃないかえ?」
「もう少しですか…ですって!葵さん」

 急に話をふられた少女——葵は、すぐさま団子を飲み込んだ。特徴である"もちもち感"が仇になったらしい。苦しそうにお茶で団子を流し込むと、息切れをしながら答えた。

「その"もう少し"がどれくらいなのかが知りたいんだけどなぁ…」

 さすが桃花だ、と葵は思う。
 ほのぼのとした雰囲気の少女——桃花は、お人好しで優しくて、すこし天然で。旅を続ける中で、どれだけ彼女に楽しませて貰っただろう。今まで事を思い出したのか、葵はクスクスと笑い出した。

「さすが、天然美少女だな」
「え?低燃費少女?」

 ガクッと崩れる葵。聞き間違いは、日常茶飯事だが…桃花の思考は本当に愉快だ。しかも、無自覚でやってのけるから尚更の事。
 不思議そうに瞬きをする桃花を見て、葵も残っていた団子を胃袋へと流し込んだ。今日中には、目的地へ着いて置きたい。切実にそう思う。

「じゃあ、行きますか」
「うんっ!!」

 何処からか財布を取り出すと、お婆に銭を渡した。毎度有り、と主人の機嫌の良い声が静かな辺りに響く。が、その声も風に遮られてしまった。
 二人の少女は、のんびりと歩く。透き通った青空から、照り輝いた太陽が彼女等を見守っていた。


 【序章・完】