二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【イナズマ】漆黒アワーグラス【ちまちま集】〔新長編スタート〕 ( No.37 )
- 日時: 2010/12/21 18:34
- 名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: F3o31y5l)
飯島が得意げにやってきた。その笑い顔が無性にムカつくのは、きっと僕だけでは無いだろう。でも、今はそんな事を思っている場合じゃない。呆然とする僕に聞こえるのは、仲間達が喜び合う歓喜の声と、夜桜中学の生徒達の歓声。いつの間にか増えていた観客さん。ベンチを見ると監督も満足そうに、それでいて信じられないとでも言うように笑っていた。笑う事が殆ど無い監督の、思いもよらない微笑みによって、僕にも"喜び"が沸き起こってきた。
「ナイスパスだったぜ!!あのコースじゃ、さすがの雷門もカット出来ないだろ」
「すごいです、葵さん…完璧な戦略勝ちですね!!」
「まぁ、貴女にしては頑張ったんじゃない」
囲まれた仲間達からかけられるのは、僕を褒める言葉ばかり。シュートを決めたのは、飯島なんだけどなぁ。でもいいか、褒められるのは嫌いじゃない。…照れるけど。
よく覚えてないけど、結構良いところにパス出来たらしい。得点に繋がるプレーって事か。あ、僕、すごいんじゃん。本音を言えば、戦略も何も無かったけどね。
「…ありがとう。でも、これくらいで満足してたらダメだよ。僕達は"勝利"の為にフィールドにいるんだ」
頷いた皆を確かめた後、ふと円堂に目を移す。どんな反応をするんだろう。日本一の学校なんだから、僅かだとしても"プライド"はある筈。
心の何処かでは、悔しがる彼等の姿を期待していたのかもしれない。現実は、あまりにも違っていたけど。
「ドンマイドンマイッ!!点取っていこーぜ!!」
おぉ、へこんでない。まぁ宇宙人倒せるくらいの精神だからね。甘く見ちゃいけないって事だ。
そしてやっぱり目が合う僕。本日、何回目だっけ?僕と円堂、気が合うのかな。運命共同体だったりしてね。
「お前…すげぇよ!!葵っ!!やっぱり楽しいよな、強い奴と戦うって!!」
にかっと彼は笑う。その精神にビックリしたけど、止められなかった事実は悔しいみたいで、何度も自分の両手を眺めていた。…やっぱり純粋だな。
「そろそろ本気出さないと、"日本一"の名が穢れるよ」
「俺達は、いつだって本気で相手に挑んでいるが」
「…キミから、その言葉が出てくるなんてね」
ドレットヘアーの男の子、鬼道有人。帝国学園でキャプテンを務めていた頃は、いつだって力加減をしているようなプレイだったのに。人の本質は、ここまで変わる事があるのか。
水中眼鏡…じゃない。ゴーグルの向こうから時折輝く、透き通った紅い瞳が眩しかった。どうしてゴーグルなんか付けてるんだろう。視界が狭まって、プレーに支障が出るとしか思えないんだけど。
「かの有名な天才ゲームメイカーが、ここまで熱い男になるなんて…雷門には、どんな面白い奴がいたんだろうね」
皮肉っぽいけど、これが僕の素直な気持ち。本当に謎なんだ。僕が知っている限り、雷門に行ってから"心からサッカーを楽しめるようになった奴"は少なくない。この学校には、サッカー部には、どんな魔法がかかっているんだろう。
僕の疑問に鬼道は、鼻で軽く笑うと呟いた。
「解らないか?ついさっきまで話していたのに」
…円堂守、か。
「いや、よく解ったよ」
この答えを僕は待っていたのかな?確かに円堂は…雷門中サッカー部は、とても面白いもん。もっともっと、プレーをしていたい。でも、時間には限りがあって。
「油断は禁物だぞ。豪炎寺だけでは無い。吹雪や染岡もいる。いつまでGKが耐えられるか、解らないしな」
「ご親切にどーも。FWにボールが回る前に、僕が防いであげるから」
一歩も退かない会話に、吹雪と呼ばれた少年が止めに入った。
「鬼道くん、あんまり怖い顔しないでよ。葵さんが困っちゃうでしょ?」
のほほんとした雰囲気が、見ているだけで癒された。こういうタイプ、好きだな…なんか、置いてあるだけでお客が増える置物みたいな。…え、違うの?
薄紫色のふわふわの髪が風に靡いた。昔、弟の人格の存在で悩み、サッカー出来なくなっていた奴だとは、さらさら思えない。
「お互いに頑張ろうね、葵さん」
その天使のスマイルに、何故かキュンときた。何か、本当に…女の子みたい。
たれ目も良いけど、綺麗な赤色の瞳も良いな。そんな事を考えながら、見方陣内へ戻った。