二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【イナズマ】きらきら流れ星【ちまちま集】 ( No.44 )
- 日時: 2010/12/24 18:08
- 名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: eMRX3Yay)
第一話【意外と窮屈な江戸の町】
ここに来るまでの道中、彼女はどんな思いで江戸を夢見たのだろうか。一度、経験がある自分としては、説明をしてやろうと思ったものの、言葉で表せないのが江戸の町。何度か挑戦してみて、"江戸の説明"の難しさを思い知らされた。
「ここが江戸の町、ですか…」
桃花がぽつり呟く。感嘆の声を上げると思っていた葵は、目を見開いた。あまりにも反応は薄くて、軽く悲しかったのだろう。しかし、よくよく思い返してみれば、葵自身も反応は恐ろしく薄かったのである。似た者同士と言っておこうか。
「…人で溢れかえってますね」
「大人ばっかりだな。狭くて息苦しいや」
道幅を大きく取っている大人たちの中に、小娘が紛れ込んだのだ。大勢の人に埋もれながら進んでいる状態である。華奢な少女にとっては、重労働なのだ。きっと、桃花も江戸は広いものだと信じていたのだろう。心なしか表情が暗い。彼女が悪い訳でも無いが、どことなく罪悪感を感じた葵も元気が無かった。
「もうちょっと広い道を作ればいいのに」
「あ、その意見に激しく同意」
「ですよね…そう言えば、葵さんの目的地って何処なんですか?」
人波を避けながら歩いていく二人。並んで歩ける状態でも無かったので、いつの間にか葵が先に歩き、桃花が着いて行く、という形になっていた。祭りでもあるのかと葵は、ふと考える。この時期に江戸に来るのは、初めてだからそれも在り得るだろう。狭い空を見上げながら、葵は思った。
「優秀な刀の修理屋がいるんだ。そこで刀を二本、直して貰おうと思って」
腰に差してある二本の刀が、カチャリと音を立てて揺れた。一本は、旅の道中にとある侍から頂戴してきた物だ。そして、もう一本の方は父親の形見である。大切な物だからこそ、きちんとした腕を持つ職人に頼みたいのだ。
「大切な宝物ですもんね。でも、人を傷つけるのには使わないで下さいよ?」
私、葵さんを信じてますから!!と桃花は、言った。そんな事を言われても、もうとっくにその誓いはした筈だ。念入りに言ってくる桃花に、苦笑いして見せた。言い過ぎたと解ったのか、桃花も苦い顔で薄く笑う。
さっきより人通りが減ったのか、よくよく商店や飯屋を観察する事が出来た。懐かしい名前の店や、目新しい店も数多く存在する。
「桃花は、方向音痴なんだから…きちんと着いてきてよ?」
振り向いた先に、桃花の姿は無かった。
「…え」
余所見をしていたからか、人が減ったと油断していたのが甘かったのか、桃花は見当たらない。ちゃんと着いてきている自信は、あったのに。探すのがどれ程、大変な事なのか、葵には解る。こんなにたくさんの人の中から、背丈が小さいせいで埋もれている可能性のある少女を、見つけ出さないといけないのだ。
忙しい訳では、無い。ただ、遠く離れてしまう前に見つけたかった。
「嘘だ…も、桃花ぁぁぁ!?」
悲痛な叫び声は、"意外と窮屈な"江戸の町に響き渡った。