二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 〔イナズマ〕きらきら流れ星〔ちまちま集〕 ( No.50 )
- 日時: 2010/12/30 18:59
- 名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: eMRX3Yay)
第三話【見つからない】
人間ばかりで窮屈な江戸。普段の葵なら、この人ごみの中を走ろうとは思わなかっただろう。しかし、今は非常事態なのだ。落ち着け自分、と暗示を懸けても効果は現れない。一向に悪くなっていくばかりだ。消極的な考えしか思いつかない。意外と打たれ弱い葵にとってこれは結構、堪えるのである。
「どどどどーしよう!桃花、泣いてないかな?変な男に絡まれてないかな?良い子だから逃げると思うけ…素直だから騙されてるかも!!それで、異国のヤローに捕まったりして、永遠に会えなくなったら…僕の責任だぁ…どこ行ったんだよ、桃花ぁぁぁ!!」
事情を知らない人からしたら、葵は危ない人である。しかし、周りの視線なんてお構いなしに葵は道を突っ切っていた。ここまで、ざっと十人くらいの振り売りに怒鳴られた気がするが、顔なんて覚えていない。相手だってそうだろう。
色々な着物の色が後ろへ消えていく。黄、青、若葉色に紅。実に色彩豊かな人通りだが、目当ての淡紅色の着物は見つからない。こんな時こそ、冷静になれれば良いのだが、葵は焦りすぎで我を失いかけていた。
「おっ…と!!そこの譲ちゃん、気をつけな!!」
「お前が気を付ければ良い話だろっ!!」
大人の男でさえ腰が引ける剣幕で、ここまで走って来たのだ。
「はぁ、はぁ…ここ、何処だよ…」
一旦、息を整える為に立ち止まった十字路。しかし、何やら様子が可笑しかった。異常な程に人が立ち止まっている。何かの野次馬なんだろう。その場を早く立ち去ろうと、足に力を入れた。が…その人ごみの奥に葵の目を釘付けにするものがあった。大人ばかりでよくは見えないが、確かにそれは、葵の知るものだった。
「…淡紅色の着物?」
確かめる為に、その人だかりに近づいた。が…
「ごちゃごちゃ五月蝿い事を…いい加減、謝ったらどうだっ!!」
「あぁん?ぶつかってきたのは、テメェだろうが!!」
男二人の怒鳴り声。只今、喧嘩の真っ最中らしい。隣に居た若い女に詳しい経緯を尋ねる事にした。女は、こういう情報を掴むのが速い。やわな男に聞くよりも速いという事だ。
「あの…何で喧嘩をしてるんですか?」
「そこの侍さん、急いでる所で正面衝突したみたいでね?どっちが悪いかもめてるみたいなのよ」
「そうですか…」
やはり、女に聞いて正解だった。ただの喧嘩なら、そう構う事も無い。"火事と喧嘩は江戸の華"だと言う。桃花は暴力が嫌いだから、眺める事も無いだろう。淡紅色の着物は、別の野次馬だったに違い無い。そのまま、立ち去ろうと背中を向けた。
「ただの喧嘩なら良いんだけど、女の子が巻き込まれてるからねぇ…」
浮かせた前足を止める。
「な、何色の着物を着てますか!?」
「淡紅色よ。丁度、貴女と同い年くらいかしらね。見慣れない髪飾りを付けてるし…」
おっとりしている桃花の事だ。喧嘩に巻き込まれていても不思議では無い。そうだとしたら、その"少女"は…