二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 〔イナズマ〕きらきら流れ星〔ちまちま集〕 ( No.51 )
日時: 2010/12/30 19:05
名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: eMRX3Yay)


  第四話【女剣士の人助け】



「桃花…」

 考える間も無く、葵は人だかりの奥へと飛び込んだ。人を掻き分けて行き着いた先は、とある商店の前だった。大きな組織なのか、商店にしては相当大きい。しかし、葵に暢気に眺めている余裕は無かった。

「あぁ?何だ?テメェ…」
「小娘が迷い込んで来たってか?ほらほら、怪我する前に家に戻りな。お母ちゃんが待ってるぞ〜」

 馬鹿にしたように男は笑う。相手にせず、葵は桃花の姿を探した。が、淡紅色の着物は男の後ろにある。隠れてしまったのか、足しか見えない。少女——葵の中では、"桃花"と認識されたが——を助ける為には、男を退けるしか無いようだ。

「…そこ、退いてくれない?」
「何を言ってるんだ小娘の分際で!!侍に楯突く気か?」
「だから…」

 すうっと、葵は大きく息を吸った。

「人様が通る道のど真ん中で喧嘩するな!!あんた等、二人とも"邪魔"なんだよ!!」

 桃花が見つからない苛立ちも含めてか、怒りが込められた大声が辺りに響いた。刹那、侍達も顔が引きつったが、男がたかが小娘に押されていてどうする。すぐに二人の怒りの矛先は、葵へと向けられたのだ。

「んだと?邪魔なのは、お前だ小娘!!」
「ただじゃおかねぇぞ!!」

 カチャっと刀が抜かれる。野次馬たちから声が沸きあがった。少女を助けようとする者も居れば、自分が立ち竦んでしまっている者もいる。二人の侍の動きを見て、葵も腰の刀に手をかけた。鋭利さが一瞬で解る銀色の輝きが、二人の侍へと向けられる。

「逃げてもいいよ?お侍さん」

 笑う葵に、侍達の堪忍袋の緒は切れた。

「「どりゃぁぁぁっっ!!!」」

 叫ぶ野次馬。我を失くした愚かな侍。そして…静かに微笑む葵。ゆっくりと刀は構えられ、白銀の光をなって振り下ろされる。三人が交差した次の瞬間には、侍達の着物の帯が切られていた。当然、赤っ恥である。

「構えが雑すぎる。反射神経が鈍い。力任せに刀を振っても、その切れ味が無駄になるだけだよ」

 父上だったらこう言うだろうと、葵は想像しつつ言う。しかし、この助言を聞くよりも前に侍たちは、逃げ出していた。相当、悔しかったようで地団駄を踏んでいたのは、言うまでも無い。野次馬達からは、歓声と拍手が巻き起こった。しかし、葵は真っ先に少女に手を差し伸べる。途中で気が付いたのだが、この少女の着物は裾が淡紅色に染められているだけであった。つまり、桃花では無い。が、助けない訳も無かったし、侍達の態度が腹立つものだったので、人助けをしたのだ。

「大丈夫かな?怪我とかしてない?」
「は、はい!!有難う御座います!!」

 藍色の髪が風に揺れる。見た所、怪我などはしていないらしい。ほっと胸を撫で下ろした。…が、少女の笑顔と桃花の微笑が重なった瞬間、葵の額に汗が吹き出た。

「あの、お名前は…是非、お礼をしたいんです!!」
「悪いんだけど、超急ぎの用事があるんだ。お礼とか気にしないで!」
「で、でも…」

 それじゃあ、私の気が済みません。
 少女が言い切るよりも先に、葵は駆け出していた。野次馬達は、何事も無かったように去っていく。そこへ、二人の少年が現れた。次々に消えていく野次馬を見て、首を傾げている。

「あれ…?喧嘩、収まったんですかね?」
「…今までそんな事は、無かったが」

 喧嘩を止めるのが仕事なのか、まだ状況が飲み込めずに辺りを見渡している。そんな二人に、あの少女は事情を説明し始めた。どうやら、知り合いらしい。

「"女の剣士"ですか?」
「はい!!でも、二人相手に怯まずに戦ってくれて…あっという間でしたよ」
「虎丸、女剣士の噂なんて聞いた事あるか?」

 首を横に振る少年。しかし、その脳内は"女剣士"の事で一杯になっていた。

「女の子なのに侍、二人を倒すなんて…豪炎寺さんと、どちらが強いですかね?」

 そんな事は関係無い。年上と見られる少年が遮ると、少女と別れを告げ、江戸の町に消えていった。まるで、最初から平和だったかのように時は時間を刻んでいく。

「それにしても…」

 虎丸と呼ばれた少年が呟いた。

「落し物をしていくなんて、せっかちな剣士ですね」

 葵のものと思われるカンザシが、虎丸の手の中で陽を受け光っていた。