二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 〔イナズマ〕きらきら流れ星〔ちまちま集〕 ( No.52 )
- 日時: 2010/12/30 22:46
- 名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: eMRX3Yay)
第五話【雷門大橋】
礼儀がなっていない侍を蹴散らした後、葵はとある橋に差し掛かっていた。木材で組み立てられた大橋は、町民の暮らしを充実させる為に、一役買っていた。色々な店へ行き来できる程、江戸っ子にとって嬉しい事は無い。そんな橋に寄りかかりながら、葵は刀を弄っていた。
「本当、何処に行っちゃったんだろう…」
広くて人ばかり溢れているこの町で、迷子になった少女を見つけ出す。剣術の練習より辛いものだった。体力は限界に近い。桃花が行きそうな場所に当てがあれば良いのだが、初めての江戸の町に、当ても何も無い。知り合いが居て、探すのを手伝ってくれれば楽なのだが、葵は根っからの江戸っ子では無い。刀の修理屋に会う為、何度か江戸を訪れていると言っても、その度に知り合いを増やせる程、葵は社交的な性格では無いのだ。
「お腹は空いたし、当ては無いし…散々だなぁ、全く」
その場に座り込むと、腕で自分を抱いた。刀が邪魔で幾度と無く体勢を変えたが、落ち着くとしばらく動かなくなってしまった。桃花もこうしているのかと思うと、胸が痛む。友人が少ない葵だからこそ、一人の友人に対する感情が厚いのだ。頼れる家族がここに居ない、という事も原因の一つだと思われる。
人が通る度に、橋が揺れた。その振動を作っているのが大人たち。仕事を行う為に、せかせかと歩いていく。誰一人として葵の存在に気づかない。先ほどまでの桃花と同じ状況なのだが、そんな事、葵が知る筈も無いのだ。
「あーおーいさん、大丈夫ですか?」
「…幻聴が聞こえてきたよ、僕」
「葵さん?どうしちゃったんですか?」
「…幻覚まで見えるなんて、空腹って恐ろしいや」
「私は、本物の桃花ですよー?葵さん、起きて下さい!」
観念して目を擦ると、探していた少女の姿が目の前にあった。確かめるよりも先に抱きつかれる。優しい温もりが、身体に沁みた。栗色の柔らかい髪をポンポン、と撫でる。嗚呼、本物の桃花だ…と、一人関心する葵。一方、桃花の方は、まだ葵から離れようとしなかった。
「良かった…葵さんに会えて」
そろそろ立ち上がろうとする葵に、気付いてか気付かないでか、顔をパッとあげた。潤んでいる薄桃色の瞳を見ると、本当に不安だったらしい。葵も心から心配していたのだが、状況を完璧には飲み込んでいないらしく、あまり感情が高ぶっているようには見えなかった。
「人って途方に暮れると、"雷門大橋"に来ちゃうんだよね」
感動の再会真っ最中の二人を見守っていた少年が呟く。葵が、誰?と囁くと桃花は、スクッと立ち上がった。
「私をここまで連れて来てくれたんです。吹雪さんって言うんですよ」
「よろしくね、葵さん」
似たような笑い方だな、と思いながらも礼を言う。桃花の面倒を見てくれていたみたいだ。雰囲気が打ち解けている。お互いにほのぼのしていて、見ている葵が一番、癒されていた。
「さぁ、迷子事件も解決したし…さっさと刀屋に向かうか」
「吹雪さん、有難う御座いました」
いやいや、と微笑む吹雪。が、二人の背後に知り合いを見つけたらしく、大きく手を振った。このまま立ち去っても支障は無かったと思う。が、知り合いは多い方が良い、と学んだばかりなのだ。吹雪の知り合いなら、紹介してくれそうな気がする。そんな大雑把な考えで立ち止まっているのである。
「どちら様ですか?」
「僕の友人なんだ。桃花ちゃんにも紹介するね!」
思わず、大当たりだと叫びそうになった葵。が、必死に平然を装う。後ろから、威勢の良い大声が聞こえてきた。周りの人、全員の視線を独占できるほどにデカイ声なのである。
「おーいっ、吹雪っ!!」
「円堂守くん。一言で言うと"熱血漢"だよ」
雷門大橋での出会いは、大きな収穫ばかりだ。葵は、思わず呟いた。