二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

剣士と少女と江戸の町っ!!第六話うp ( No.60 )
日時: 2011/01/05 18:49
名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: eMRX3Yay)

  第六話【江戸の噂】

 雷門大橋で出会った"円堂守"は、吹雪が言った通りの熱血漢だった。しかし、少し熱すぎる男なだけで、悪いやつには見えない。むしろ、頼り甲斐のありそうな男だった。共に居て、厭きる事は無いだろう。

「お!葵も剣術をやってるのか?」
「まぁ…昔からやってたんだ」
「俺の友達も上手でさぁ!今度、会わせてやるよ!」

 他愛の無い話で盛り上がる一行。ふと良い香りが町に漂った。そう言えば、江戸に着いてから何も口にしていない。朝の団子が最後だった。太陽は、すでに南へ昇っている。お昼時は、とっくに過ぎ去っていた。

「なぁ、ここら辺に飯屋はあるか?」
「一番近いのは…虎の屋だね、円堂くん」
「よし!俺が奢ってやるよ!」

 と言う事で、"虎の屋"に向かう事に…

*。+

「おっじゃましまーす!!!」

 暖簾を潜り抜けると、数人の客が残る店内から威勢の良い声が聞こえた。円堂程では無いが、活気のある店である。昼は過ぎたからなのか、客足は、そこまで多くなかった。店の奥から、温かみのある声が聞こえる。

「あら?…円堂くんと吹雪くんじゃない!後ろの娘さんは?」
「雷門大橋で知り合ったんです!」

 顔馴染みなのか、会話が弾んでいる。空いている席を陣取ると、"お品書き"を手に取った。円堂と話しているのは、大人の女性らしい。目が合うと、優しく微笑みかけてくれた。母親らしい雰囲気を持っている彼女。四人の元へお絞りを持ってきてくれた。

「…僕は、蕎麦にする」
「じゃあ私も!」
「蕎麦二つね?少し待ってて」

 円堂曰く、この人の息子が剣術使いだそうで、仲が良いらしい。そんなに強いのか、と尋ねるとそいつには尊敬する男がいるらしく、そいつが江戸で一番を争うほどの剣の腕を持っているそうだ。上には上がいる。いつか会ってみたいと思う反面、怖い男だったら嫌だな、と勝手に想像していた。
 蕎麦を持ってきてくれたのは、あの女性では無かった。年齢は、まだ若い。娘なのだろうか。

「お手伝いに来てる乃々美さんだ。料理が上手いんだぜ!!」

 従業員らしい。明るく溌剌としていて、優しそうな人だった。蕎麦も美味しい。金を払って食べる価値がある飯だ。しみじみ感動していると、乃々美さんは、江戸の噂を教えてくれた。

「円堂くんたちさ、今日の午前中に喧嘩があったの知ってる?」

 知る筈も無い。毎日のように殴り合いの喧嘩が起きる江戸でそんな事を把握していても、意味がまるで無いからだ。当然、首は横に振られる。

「お侍二人の喧嘩だったんだけど…誰が止めたと思う?」
「うーん…また、豪炎寺と虎丸が止めたのか?」

 残念、と舌を出す乃々美さん。ここだけの話、といわんばかりに声を潜めると、こそっと呟いた。

「実は…とある女の子が剣で倒したんだって!!カッコいいでしょ?」

 三人が口々に褒め称える中、葵はただ一人、お茶を吹き零しそうに堪えていた。