二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 〔イナズマ〕きらきら流れ星〔ちまちま集〕 ( No.63 )
- 日時: 2011/01/06 17:04
- 名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: eMRX3Yay)
- 参照: 今日のイナイレ…響木さん、追っ手が誰だか解るとか、何者なんでしょうか?
第七話【その人、自分なんですけど】
「女の子なのに、お侍さんを倒すなんて、すごいです」
「きっと強いんだろうなぁ……豪炎寺と虎丸にも会わせてぇ!」
「二人とその子……どっちが強いかな?」
和気藹々とする店内。女剣士の話で盛り上がっている最中だが、不思議なもので、誰も葵を疑わない。女剣士など、葵以外にいる筈もないのだが。天然な三人に気付けと言う方が無謀だろう。
いっそのこと自分がその女剣士だと解ってくれた方が楽だ。いつまで、こんな肩身の狭い思いをしなければならないのだろう。葵の口から、自然に自分を哀れむ溜め息が零れた。
「葵さんは、どう思います?その女剣士さんの事」
そんな事を聞かれても……自分の事をどう思えば良いのだろうか。その時は、桃花が見つからない苛立ちで侍を斬ったのだから。
「そう言えば……葵の他に女の剣士なんて、いるのか?」
空気を読む事を知らない円堂が、無垢な笑顔で恐ろしい言葉を放った。一番、触れないで欲しかった事実。もう少し早く気付いて欲しかった事実。どうしてこんな悪い時に言ってしまったんだろうか。それは、円堂にしか解らない。
「……確かにね。葵さんしかいない気もする」
「もしかして、葵さんだったりしてね」
笑いながら、二人は言う。再度、葵がお茶を吹き零しそうになったのは、言うまでも無いだろう。ここまで気付いたなら、自分から白状しようとばらされようと同じだ。
「僕、その喧嘩に関係してるん『そんな訳、無いか!』……は!?」
そうですよね、と桃花。吹雪も続いて頷いている。どうしてわかってくれないのか。謎で謎で仕方が無い。天然は、時に恐ろしい能力と化する。改めて学習した事だった。
もう何も伝える事は無い。黙ったまま、葵はお勘定を済ませようと財布を探した。財布はすぐに見つかったものの、いつも触れていた感触が消えている事に気付く。ひんやりとしていて、飾りの付いた"あれ"が。
「あれ……ないんだけど」
「財布ですか?」
「違う。母上から貰った簪が無い……」
お金に困ったら売り払いなさい、としつこく言われたあの簪。どうして無くなったのだろうか。まさか、あの十字路で落としたんじゃ……
「まずいな、うん。無くしちゃいけない物をなくしたみたい」
「じゃあ、探しに行こうぜ!」
「皆で協力すれば見つかりますよ!」
そこまで大事では無いのだが、協力的な二人。ぐいぐいと店の外へ追い出されていた。仲良くなったのは良いものの、何かを忘れている気がする。空を見つめ、しばらく考えたが、何も思い浮かばなかったので、大人しく簪探しへ行く事にしたのだった。
「お勘定……僕が代わりに払いますね」
忘れられた吹雪の哀れな謝罪の声は、風に掻き消されてしまった。