二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

第三章 ( No.30 )
日時: 2010/12/20 22:05
名前: 双海 (ID: BdM.OEZp)

 そう言った瞬間、王女の顔はぱっと明るくなる。
「じゃあ、今日の夜お願いするわ。」
「…え。そんなに早くですか?」
 僕がそう言うと、王女の顔はまた暗くなる。
「あの女は、カイトがこっちによく来る時に使ってたあの別荘にいるそうよ。」
 僕の言葉には反応せず、王女はそう言うと、ぎり、と歯を噛みしめる。

 そして、机に飾ってある薔薇の花をぐしゃ、と握り締めた。
 その表情は、いかにも悔しいといった表情であった。

「リン様…。」

 どうしてそんな表情をするのか。
 それは、僕にもわかることだった。
 その別荘は、カイトに今度招待する、と言われた別荘。
 ミクに先を越されたという思いと、もうその別荘へ行けない、という思いからだろう。

 王女は薔薇の花から手を放す。
 すると花びらが一枚、破かれた手紙の上へ落ちた。
 あまり強く握り締めていなかったのか、潰れてはいなかった。

「あの別荘にはそう簡単には入れないわ。あの女がいるんですもの、厳重に注意しているはず。」
 僕の方をちらりと一瞥し、言葉を続ける。
「まぁ、貴方達は、手紙を送る程仲が良いようだし、別に問題はないかしらね。」
 王女はそう、皮肉めいた言い方をし、笑う。
 別にそんな仲が良いわけじゃない、そう言おうと口を開いたが、言う必要がないことを悟る。
 何故なら、王女は僕にはもう興味がないかのように花を眺め始めたから。
「じゃあ、よろしくね。あ、それまでの間、休んでいていいわよ。」
 そう言った王女はどこか冴えない表情だった。

「失礼しました。」
 僕は一礼し、部屋を出て行く。

 一礼する際に見えた、床に落ちた真っ赤な薔薇の花びらは、
                       白い手紙によく映え、とても綺麗だった。