二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

第四章 ( No.46 )
日時: 2010/12/31 12:16
名前: 双海 (ID: BdM.OEZp)

 僕はその礼が何に対してかわからなかったが、王女は喋り続ける。
 さも、嬉しそうに。

「あの女、見つかった時にはもう手遅れだったんですってね!」

 僕は王女が言った言葉をすぐには理解できなかった。
 いや、理解したくなかった。
 理解したくなかった、なんて自分で“そのようなこと”をした人の言う言葉じゃないが。

 僕は、信じていた。
 彼女はあの後すぐに見つかって、助かった、と。
 あんな人通りのない所なんだから、助かる可能性はない、と心の片隅ではわかっていた。
 けれど、そう思っていないと、罪悪感に押し潰されてしまいそうで。
 彼女の、“死”を受け入れたくなくて。
 だから、助かったと信じていたが。
 やはり、現実はあまりにも残酷だ。
 なんて、彼女を“そうさせた”のは僕なのに、なに被害者面しているんだか。
 ああ、くそ。

 乾いたはずの涙がまた溢れるのを感じ、咄嗟に顔を王女から背ける。
 そんな僕の心境なんて王女は知らず、話す。
「レンは頼りになるわね!」
 そう言って王女は笑った。
 その笑顔が彼女の笑顔に重なって見え、余計胸が苦しくなった。

「今日のおやつは何かしら?」
 そう言われ、お菓子を運びに来たことを思い出す。
 王女の待つ机まで歩いて行く。
「今日は、王女の好きなブリオッシュですよ。」
 そう言って僕は笑ったが、声が震えそうになるのを抑えるので必死で、上手く笑えなかったかもしれない。
 けれど王女はそんな僕を気にも留めず
「あら、本当?」
と言い、屈託のない顔で笑った。

 この時王女がこんなにも無邪気な顔で笑えたのは、この先に起こることなんて知らなかったからだろう。
 実際、僕も知らなかった。
 今となっては、どうやったらあの“事件”を回避できたか…そんなことばかり考えている。
 いや、どうやっても回避できなかったのかもしれない。
 あの“事件”は、必然だったのかもしれない。