二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

第五章 ( No.52 )
日時: 2011/01/04 22:06
名前: 双海 (ID: BdM.OEZp)

 僕の考えが口に出ていたのか、ネルはそう言った。
「村人達を鎮圧することができない?」
 ネルの言ったことがすぐに理解できず、復唱する。
「そうよ。」
 ネルは深刻な面持ちで頷きながらそう言う。
「どうして?」
 一方僕は、その深刻な面持ちの意味を理解できず、間の抜けた声でそう訊く。
「兵士が不足しているからよ。」
 兵士が、不足している。
 ネルの言葉を心の中で復唱する。
 その兵士が不足しているという言葉に何かが脳裏をよぎった。
 その何かを思い出す為、僕は記憶を巡らせる。
 そして思い出す、少し前のこと。
 そう、王女と大臣がしていた時に、王女が言ったあの言葉。

 “緑ノ国を滅ぼしてしまえ”

 そして、その言葉に大臣は、こう言った。

 “明日、兵士達を緑ノ国に向かわせます”

 そうか。
 緑ノ国に“兵士を向かわせる”。それは“戦争する”と同じことを意味する。
 “戦争”しに行くのに、少ない兵士で行っては返り討ちに合ってしまう。
 だから、この国の兵士の殆どを緑ノ国へと向かわせた。
 その為、兵士が不足し村人達を鎮圧することができない、のか。

「…大臣は、なんて?」
「王が何か言わない限り、行動できない、って…。」
 ネルは視線を下に落とし、消え入りそうな声でそう言った。
「…大臣は、今どこに?」
「え?部屋にいるわよ。」
 その言葉を聞いた僕は、礼を言い、大臣へと向かう為、ネルに背を向ける。
「大臣の部屋へ行くの?」
 ネルのその問いに僕は小さく頷き、走り出す。
 ネルの制止の声が聞こえたような気がしたが、僕は足を止めることはしなかった。

 やがて見えてくる小汚い扉。
 それは大臣の部屋のもので、昔は大臣なのに随分扱いがひどいものだ、とよく思っていた気がする。
 けれど、僕がそう思ったのは、王や王女のあの綺麗な厚い扉を毎日見ていたからだと今になって悟る。
 いや、そんなことは今はどうでもいい。

 この状況を、早くなんとかしたい。
 その一心で僕は扉を開けた。