二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   ▽ 鬼爪 【戦国BASARA3】 ( No.3 )
日時: 2010/11/28 21:57
名前: 蓮羽 ◆8ylehYWRbg (ID: vtamjoJM)
参照:                元、帽子屋ですv      

▽壱


時代は一つの関を迎えた。
明智光秀が織田信長に謀反、織田軍が滅亡する。
これで長かった乱世も終焉を迎えた——ように思われた。

織田滅亡後、日の本を席巻したのは豊臣軍総大将豊臣秀吉だった。

豊臣秀吉はその圧倒的な軍事勢力で天下を統一。
さらには世界進出という壮大な計画を目論んでいた。
しかし傘下に入っていた徳川家康はこれに反発、激闘の末秀吉を打ち破った。

織田、豊臣、2つの時代が終わりを告げ、天下を再び乱世が訪れた……—————。






男は逃げていた。もとい、任務が達成されたため抜け出していた。
男は徳川の忍びであり、石田軍の機密情報をやっと手に入れた為、今から抜け出すところだった。
忍びの中で結構な手練だった男は、今回の任務も簡単だったと余裕の表情を浮かべていた。

城の塀を高々に飛躍して超え、男は軽々と着地した。
ここまで誰も気付いていなかった。さて、家康様のもとへと帰るか。
そう安堵の息を吐いた、その時だった。


『こーんな遅くにお疲れさん、どこ行くのか教えてよ』


男の背後から、声がした。
明るく軽い口調から、男はそれが誰だかハッキリと分かった。

那塚稜弥だ、豊臣の番犬だ……!!

そして、背筋に冷や汗が浮かんだ。

選択肢は、①振り向かずに逃げる ②振り返る のどちらかに絞られた。
恐る恐る振り返ってみる。振り返らないことには、何も始まらないと男は判断した。

が、結局はどの選択肢も正解ではなかったと、男は悟った。

ズブッ、と鈍い音がする。
男の胸に食い込んだ紅い刃が5本。
断末魔さえ発する暇もない、瞬速の所業。

男はごぷっと真っ赤な血を地面に吐き出して、そのまま逝った。

月光に照らされた男の死体を、稜弥は静かに蹴飛ばした。





「間者か」

『そ。あの結構強かった忍び。あいつ徳川のだった』

大谷吉継の部屋。
書物の整理をする大谷の横で、稜弥はあぐらを掻いてそう軽く言った。

『刑部、お前気づいてたろ、侵入されてたの』

大谷は手を止めて、少し考える素振りをしてから、

「なに、不快な虫はぬしが全て退治してくれるのであろ?」

とニヤつきながら答えた。
稜弥は呆れた。

『あのね、俺そういう過度な期待に弱いから、あんまりそんなこと言わないでくれる?』

大谷はヒヒッと笑うと、また書物を整理しだした。




那塚稜弥、別名「豊臣の番犬」。
豊臣に仇なす者は全て稜弥の手によって消される。
何故この名前がついたのかは、彼女の戦闘を見ているとおおよそ分かる。

稜弥が愛用する武器、≪鬼爪≫。
それは両手に装着する5本ずつの刀の事。両手を合わせて10本ということになる。
それを用いての戦闘はさながら凶暴な犬の様に野生的であるということから、この名前がついた。

あと、理由はもう1つある。
それは豊臣に対する絶対的な忠誠心。
彼女はこれまで、豊臣が天下を統一するまで数々貢献してきた。
そして豊臣が滅んだあとも、豊臣秀吉の忘れ形見である石田三成に従っている。

石田軍といえば復讐心の塊である石田三成と謎が多く得体の知れない大谷吉継がいることから、何か禍々しいものを感じる人も多くないだろう。
しかし稜弥はまったく石田軍の概念を反した人間であることを覚えておいてほしい。
明るく元気で人は皆平等に接する。少し馬鹿なのが玉に瑕だが。
そのため部下からの信頼は厚く、三成や大谷らとも仲が良い。

深いようで深くない、浅いようで浅くない、あまりつかめない人物である。




『ハックションッッ!! 寒い——!! 何だこの部屋異様に寒いぞ!! どうしよう三成俺風邪ひきそう!!』

「心配するな、馬鹿は風邪をひかん」

『んだとテメェ!!』

盛大にくしゃみをかましたあとに三成にそう言ったら、なんか腹立つことを言われた。
刑部の部屋が妙にポカポカしてたから、三成の部屋は異様に寒く感じた。

三成は俺がここに飛び込んできたときすっごく怪訝な顔をしてたから、これは怒られるかなと思ったんだけどなんやかんやで入れてくれた。
でも、刑部の部屋にいるときもそうだったけど、特にコイツの部屋来ても面白くないから来るだけ無駄だったかな、とちょっと後悔している。

『てかこの季節なのに火1つつけないってどう? お前本当に人間か? 寒さを感じねェの?』

手に息を吐きかけて、こすってみるけど温まらない。
そう三成に聞いてみると、凄い不機嫌な顔をされたのでちょっと怯んだ。

「寒いなら出て行け、鬱陶しい……ックシッ」

そう言った三成も、この2秒後ぐらいに小さいくしゃみをした。

『お前も寒いんじゃん』

「五月蝿い!!」

ぴしゃりと言いつけられて、また少し怯む。
でもやっぱ寒そうで、意地っ張りだなーと半ば呆れた。

『……刑部の炬燵にでもあたってくるか』


▽ つづく