二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   ▽ 鬼爪 【戦国BASARA3】 ( No.6 )
日時: 2010/11/30 18:28
名前: 蓮羽 ◆8ylehYWRbg (ID: vtamjoJM)
参照:                  元帽子屋ですvv


▽ 弐


大好きでした。
拾い物の私にも、優しくしてくれる貴方の事が。
とてもとても、大好きでした。

でも、何ででしょう。
貴方は突然、逝ってしまったのです。

泣きそうになりました。
たくさんたくさん泣きそうになりました。
でも、貴方を殺めた人のことも嫌いになれなくて。
もっともっと心が痛くなって、泣きそうになりました。
私の友達も、悪に染まってしまいました。
それでもう心がボロボロになって、もっともっと泣きそうになりました。

だから、それでも私が強く在らなきゃいけないと思いました。

だから、今の私が在るのです。私は泣いてはいけないのです。

俺は泣いてはいけないのです。





『どけどけェ!! どかないと俺に食われちゃうぞーっ!!!』

何人もの兵どもが薙ぎ倒され、屍の山となって積まれていく。
それは全て、稜弥が作り出した物だった。

「番犬だ!! 豊臣の番犬が来たあああ!!」

「撤退だァァ!! もう応戦しきれない——ぐあッ!!」

撤退の命を下せようとも下せない、そんな超高速の速さだった。
敵兵は皆恐れをなし、刀を捨て、逃げ惑った。

「稜弥!! 次は私が斬る!! いい加減止まれ!!」

遠巻きに見ていたが、そろそろ痺れを切らした三成のその怒号で、一瞬稜弥の動きが止まる。

『えー!? だって一応俺切り込み隊長なんだしさー!! これくらいやらないと仕事した気にならないー!!』

そう大声で返事を返したら、「五月蝿い」と一蹴された。

「お前がそこで斬ってばかりいたら前に進めんのだ!!!」

それを言われたら、さすがに稜弥も止まりざるをえなかった。
すると、稜弥が止まった瞬間に三成が俊足で敵に斬りかかる。
そのまま奥へと進んでいった三成を見ながら、あとからふよふよと浮き進んできた大谷に稜弥は呆れて聞いた。

『何、何で三成荒れてんの?』

大谷はふうとため息を一つ吐いてから、

「北条に太閤の悪口を叩かれたらしい」

と答えた。


舞台は小田原、小田原城再建戦。
秀吉の悪口を北条氏政が叩いたらしく、その情報が三成の耳に入って、今に至る。

「我は先に行く故、主もはようついてこい」

『もういいじゃん北条なんて三成1人で勝てるって、行かなくてもいいよ』

「そういうわけにもいかぬ。やれ、戦意喪失か?」

『ちげーよ、ったく面倒くせェ』

稜弥は頭を掻き、顔を顰めた。
大谷はヒヒッと笑うと、そのまま言ってしまった。

超絶北条家栄光門が、大きな音をたててゆっくりと開いたのが遠巻きに見て取れる。
あーもう三成あんなとこまでいったのか、とぼんやり眺めていた稜弥は、ハァッと大きく深いため息を吐いて、また走り出した。





帰り道、勝敗は見事(というかやっぱり)石田軍の大勝利で幕を下ろした。
北条はいろんなところが大損害だったが、北条氏政の命は稜弥が三成に頼み込んでなんとか見逃してもらえた。

帰路、兵士達の行列の一番先頭に稜弥、三成、大谷は居た。
三成は大層機嫌が悪く、その理由は稜弥も大谷も分かっていたので、あえて触れなかった。

季節は段々と冬の足音が聞こえる頃となったが、まだ紅葉は赤々としていて、見ているこちらを和ませる。
綿雲のような雲が流れ、赤橙の夕日が美しく沈んでゆく。

木枯らしがぴゅうとふき、思わずぶるっと身震いをする。
そろそろ本当に寒いな、冬用の着物出しとこう。
稜弥はそう決意して、露出した腕を摩った。

「稜弥」

そんな稜弥を、横に居た大谷は呼んだ。

『ん、何?』
「帰ったら、ちと使いを頼みたい」

稜弥は首を傾けた。

『使い?』
「そうよ、毛利に書状を渡してきてほしい」

毛利元就、詭計知将の名を持つ男。
どんな奴かあまり稜弥は知らないが、いい噂を聞かないのは確かだった。

大谷の背に回りながら浮いている数珠が、夕日にきらりと光った。
毛利? 毛利に何の用があんの?
稜弥がそう聞くと、

「なに、あとで分かることよ」

とはぐらかされた。
分かるならいいや、と稜弥はまた前に向き直った。

稜弥はたまに、大谷のこういう所を不思議に思う。
何か俺達に隠してやってるのかなー、なんて少し疑心暗鬼になってしまう。

『(……証拠も無いのに疑っちゃ申し訳ない、なんか引っかかるんだよなー……)』

そんな事を思いながら、横目で大谷を見やる。
いつもと変わらない大谷の様子に、疑っている自分が馬鹿みたいに思えた。


兎も角、稜弥の明日の予定は決まった。
しかし戦の時以外あまり領地外へと出ない稜弥は、毛利の拠点がまったく分からなかった。

『ねぇ三成、毛利ってどこら辺のだっけ』
「そんな事も知らないのか、無知め」
『何でお前にンな事言われなきゃならない』
「中国だ、あとは知るか」
『テメーもよく分かってねェんじゃねーかよ!! 無知!!』
「なんだと、貴様が言うのか!!」
『言うねバーカ!! バーカバーカ! 前髪ー!!』
「ッッ貴様ァァ!! そこに座れ残滅してやる!!」

ギャイギャイと言い合いになった三成と稜弥を、「また始まった」という目で見ている大谷が痺れを切らして止めに入るのは、あと30分後の出来事である。



▽ つづく