二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 刹那の欠片 【REBORN!】 7/26up! ( No.177 )
日時: 2011/08/09 14:54
名前: 葵 (ID: 5Zruy792)

 34話 恐怖来る!


————(エル目線)


 目の前で横たわっているのは私の愛しい兄様。
 様々な機械に囲まれ、未だに意識は混濁状態……。
 峠はとうの昔に越えてしまった筈なのに、まだ目覚めず……点滴で命を繋いでいる状態が続く。
 とはいえ、まだこの状態が一日しか経っていないのだと気付いて、随分長い間待っているのだなと理解する。
 兄様のいない一日が、こんなにもつまらない一日だなんて私は気付いてすらいなかった。


「……兄様……」


 点滴の付けられた、兄様のがっしりとした腕を掴む。
 私とはまた違う、男らしさの溢れる腕。
 早く……早く起きてと急かす様に、私はその腕に触れる。

 怖い。
 このまま、兄様が目覚めなくなってしまうのではないかと考えてしまう自分が一番、恐ろしい。
 兄様と離れてしまえば、私など……存在意義も殆ど無い様な生物なのに。
 兄様は私の全てを認め、全てを受け止め、優しく包んでくれる。
 兄様だけが私を理解してくれる。
 だから兄様も、私だけを理解してくれているのだと思っていた矢先。




____山本 武が現れた。




 私達の仲を引き裂くかの様に現れたそいつに、初めは煮えたぎる憎悪しか抱いてはいなかった。
 けれど、この兄様の横に添えられた花を見る度に、彼は本当に悪い奴なのかと自問自答する。
 結果は毎回同じだが、最近では結果が出るまでに時間がかかる様になっていた。



____ガラッ



 面会謝絶の札を貼っているにも関わらず、誰かが入って来る。
 恐らく、キュリアの誰か。
 シャッと音を立て、カーテンが開けられる。
 そこに立っていたのは、普段ロキと常にいる筈のロキの部下____彗だった。


「彗……さん……」
「……邪魔、やったかな」


 雪浪かそこらだろうと思っていた私には、思いがけない来訪者だった。
 そもそも、私は彗さんと一緒に任務に同行した事が一度たりとも無かった。
 つまり、ロキと一緒にべたべたくっついている時の彗さんしか、私は見た事が無かった訳である。
 同じキュリアである筈なのに、キュリアの幹部とは殆ど接触していないであろう彗さんが、わざわざ……何故ここに来たのか。
 そこが私の疑問点だった。


「……邪魔では、ありません…………いきなりの来訪者に驚いただけ、です……」
「雪浪か明日香か……そこらかと思ってたんか?」


 そう言って苦笑する彗さんに対し、私は頷く。
 彗さんは兄様の隣の椅子に座り込み、はぁ、と深い溜め息を漏らした。
 何かに悩んでいるのだろうが、向こうが何も話して来ないと言う事は突っ込まない方が良いのだろう。
 にしても……何故兄様の所に来たのかが、謎で仕方がなかった。
 兄様が元気だった頃に、彗さんと兄様が一緒にいるのを目撃した事は無い。
 特別な仲だったという訳でも無く、何故彗さんが一人でここに来たのか、私には理解不能だった。


「あの、何か……兄様に用事ですか?」
「……そういう訳や無いんやけど……まだ、治れへんのかなと思って来たんよ。ロキ様には黙って来たから……バレたら怒られるかも知れへんけど」


 そう言って苦笑する彗さんに、私はそうなんですかと答えるしか無かった。

 何故……?
 何故彗さんがわざわざ兄様に会いに……?

 その思考だけが渦巻くが、答えは出ないまま。


「……なぁ……」
「……はい?」
「もし……うちが————…………」


 何かを言いかけて、彗さんは話すのを突然止めた。
 完全に言う機会を失ったのか、彗さんは俯く。
 何を言いたかったのか、私に何を伝えたかったのか……。


____ガラッ



 またしても面会謝絶の札を完全に無視し、人が入って来た。


「ロキ、様……」
「こんな所にいたんだね、彗。探したよ」


 どことなく、ロキに違和感を感じた。
 何処なのかは分からない。
 けれど、同じ仲間である筈の私に対し、そこはかとなく殺気を放っている様に感じたのだ。


「キルの容態はどう?」
「え、あ…………」


 不意に問い掛けられ、言葉に詰まってしまった。
 そんな私をロキは一瞥し、傍に生けられていた花に手を添える。


「綺麗な花だね、エルが生けたの?」
「……山本 武が勝手に生けたんです……」
「…………ふうん、そう……」


 明らかに、場の空気が凍り付いたのが理解出来た。
 彗さんは相変わらず俯いたままで、ロキは笑顔なのに殺気を放っている様にしか思えなくて……。
 この場から、逃げ出してしまいたいと思った。
 いきなり、ロキが花を握り潰した。
 くしゃりと儚く花は潰れてしまい、潰れた花をロキは床に落とす。
 はらはらと宙を舞い、花びらは床に落ちた。


「どうしてさ、キュリアの皆がボンゴレに感化され始めてるんだろうね?」
「……へ……?」
「キルだってそう。今までエルにしか心を開いていなかった筈じゃないか。少なくとも、キュリア内にしか心は開いていなかった。エルもそうだよ。キルと二人だけで、ずっとやって来てた。なのに、どうして山本 武に心を揺さぶられてるの? 前までのエルなら、こんな花、容易く折ってただろ?」


 ロキが、片足でぐしゃりと花びらを踏み潰す。

 怖い。
 怖い怖い。


「やっぱり、ボンゴレは脅威だ、敵だ。ボンゴレの精鋭である筈のキュリアを、ここまで弱体化させるなんて。ボンゴレは不穏因子なんだ。やっぱり、殺す他方法なんて無いんだよ」


 怖い怖い怖い怖い。

 ロキはそう言って、花びらから足を退けた。
 そして、彗さんに手を差し伸べる。


「理解してくれるのは君だけだよ、彗。早く行こう」


 差し伸べられたその手を取り、彗さんは微笑んだ。
 ロキはそのまま彗さんを立たせて、部屋から出て行ってしまった。





 ロキは何を考えているのか。
 私には全く理解すらも出来なかった。
 けれど、これから起こるかも知れない事態に……体を震わせる他無かった。