二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: もう一つの獣の奏者 ( No.10 )
日時: 2010/12/11 00:02
名前: スズ ◆ixbyCx13Wk (ID: OWe0NuL4)
参照: +第2話+

その日の夜更け…。イアルは1人、見知らぬ村・アケ村の夜空を見上げていた。
抜け出す最中にコレと言ってたいした怪我もしていなかったから、体そのものは昼間眠っていたおかげで回復していた…。けれど、まだ少年のイアルの心は回復は出来ていなかった…。
セ・ザン(堅き盾)に入団してまだ間もない…つまり、母と別れてまだ間もない少年イアルの心は、母への恋しさで心が張り裂けそうになっていた。

「まだ眠れなかったの?」
ふと、声が聞こえた。それは優しくどこか懐かしい暖かな声…。
声のした方を振り向くと、昼間自分を助けてくれたエリンの母だった。

「いえ、ちょっと考え事をしていただけです…」
「…そうだったの、邪魔しちゃった?」
「まさか、居てください…」
「じゃあ遠慮なく…」
そう微笑みながら彼女は地面に座った…。イアルも何となく横に座る…沈黙が2人を包む。

「あの子ちょっと変わってるでしょ?」
不意にそう問いかけられ、イアルは返事に戸惑った。けれど考えてみれば、自分より幼そうなあの少女が眼の前で倒れた人物をわざわざ助けるだろうか?怖くなって逃げ出すのではないだろうか?そう思うと確かにエリンは変わっていたのかもしれない…。

「…イアル君、私は貴方にこれまで何があったかなんて必要以上に聞きはしないわ。約束する。
 そして、貴方が此処にいる間は私は貴方の保護者として自分の子と同じように精一杯守ってあげる。
 けれどね、これだけは心の隅にとどめておいて…。貴方は大きな組織を抜け出してきたの、まだ子供だから必要以上に追い掛け回して殺したりはしないと思う。だけど何らかの処罰はあると思うわ…。もしもその処罰が、あの子…エリンに大きな害を及ぼすのなら私は貴方の敵になってしまうかもしれない…分かる?
 私も出来得る限りそれは避けていくけれど、もしもの時はそう考えておいて。」
彼女は真っ直ぐとイアルを見つめ、そう静かに語った。
イアルもその位は理解していたから驚きも無くただ純粋に大きく、強く頷いて見せた…。

「あ……。」
彼女はエリンの母は驚いた顔でイアルを見つめていた。そして少し考えるように俯いてから顔を上げた。

「貴方は本当に辛い思いを沢山してきたのね?イアル君…。今は私を頼りなさい。何でも出来る事ならして上げるから」
ふと、イアルは気付いた。彼女は自分に語りながら自分の目元を拭ってくれている事に…。
そして、驚いた。自分が泣いていたという事実に。

「泣く事も忘れていたのね…。今はいくらでも泣いて良いわよ…私と貴方の秘密にしてあげるから…」
彼女の声にイアルは安堵し、恐る恐る彼女の胸に顔を埋めた。イアルもまだ少年だったからか、泣きに泣いた…これまで我慢していた全ての涙を出すかのように静かに…子供の様に…。
数分後、イアルは眠っていた泣き疲れていたのだ、そして彼女は大切なガラス細工を運ぶようにそっとイアルを抱いて家に入り布団の上にそっと寝かした。
こうして、イアルのアケ村での初めての夜は幕を閉じた。