二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: もう一つの獣の奏者 ( No.29 )
- 日時: 2010/12/30 17:19
- 名前: スズ ◆ixbyCx13Wk (ID: OWe0NuL4)
- 参照: +第16話+
イアルは文を書き終え、筆をおく。
今までの事をセ・ザン(堅き楯)に居る友に綴っていくうちに、たくさんの事があったのだと改めてイアルは少々驚いた。
この文が届く頃には自分がどれほど変われているか…。
少年特有のワクワクとした感情が溢れてきた。
その日の深夜…。
村の家の明かりが一つ残らず消えた頃、銃声が数発鳴り響いた…。
しかし、銃声は夜の闇にかき消され、村人誰一人気付くものは居なかった…。
あくる日の朝。アケ村の大人達はある広場に呼び出された。
勿論、ソヨンも例外ではなかった…。
「なんとも惨たらしい…」「何でこの村の中にこんなものが?」
人々は〈それ〉を囲みながら口々に囁きあう。
「静粛に!」
その囁きを一言で止めたのはこのアケ村でも一目置かれている闘蛇衆の頭領のハッソンであった。
ハッソンやその他の闘蛇衆は〈それ〉の第一発見者に当たるため、群衆の前で立っている。
〈それ〉というのは動物の死骸だった。
猟銃で撃たれた鳩が4羽、刃物で切り刻まれたネコが3匹の計7つの尊い命が失われた。
それも、内臓がむき出しになっていたりと何とも惨たらしい状態であった。
単なる嫌がらせにしてはやりすぎだった…。
「この他に何か被害は無いのか?」
「あ、あの…俺の家に飾ってあった猟銃が今朝盗まれてて…」
群衆の中の一人が恐る恐る発言する。
「なるほど、凶器も分かった…。この件は我々で話し合おう…。
全員ひとまず家に戻ってくれ…」
その家に数人の男性と真ん中に老人が1人、ろうそくを囲うように座っていた。
「いったい、犯人は誰なんだ?」「まさか、この村にあのような事をする者が?」
「分からないが、そう考えるのが妥当だろ?」
口々に討論が繰り広げられていく…。
「わしは知っておるぞ!そんなことする奴を!!」
当ての無い討論の中一人の老人がズカズカと家に入ってくるなり大きくそう叫んだ。
「アンタは…ガシュラの旦那、誰だ?その人間は?」
「そいつはな………」
ガシュラが話し始めたのは数日前に自分の家に居た一人の少年の話であった。
ガシュラの話を聞いて人々はその少年の目撃情報を話し出していった。
「で?そいつの名前と居場所…誰か知らないのか?」
「俺が知っている…」
「ガシュラさん!なら早く教えてくれよ…」
「そいつの名前はイアルだ、確かあのソヨンの家で匿われているらしい…」
「またか…」
その話しを静かに聞いていたハッソンは小さくそう囁いた。
急に家のドアを強く叩かれソヨンは慌てて出迎えた。
「はい…あ、どうしたのですか?」
「ソヨン、此処にイアルという少年が居るそうだな?」
「え、えぇ…」
「そいつをこちらに渡してもらえないか?」
「…それは、何故ですか?イアル君がいったい何を?」
「ソヨン、お前も朝聞いただろ?あの犯人として名前が挙がったんだ!」
「馬鹿言わないで下さい…あの子はまだ子供です…そんな事できるわけありません!帰ってください!!…早く帰って!!!!」
ソヨンは力任せに無理やり扉を閉めた。
その様子を見ていたエリンとイアルが戸惑いの目でソヨンを見つめる。
「大丈夫よ!ほら、ご飯食べましょ?」
ソヨンは笑顔で2人を安心させようと普段通り夕飯の準備を始めた。
「俺、迷惑なら…別に捕まっても大丈夫ですよ?前も似たような所にいたし…俺、追いかけてきます!」
イアルがそう言って駆けて行こうとした時ソヨンはその肩掴み自分の方に向かせてイアルの頬を叩いた。
「何でそんな事言うの!?イアル君…悔しくないの?貴方は関係の無い事で容疑がかかったのよ?そんなの良い訳ないでしょ?」
ソヨンは涙ぐみながらそう言った。
「分かったらお願いだから、もうそんな事言わないで…」
イアルには分からなかった…何故怒られたのかが。
冷静に考えれば村の者からそう言われたのなら従えば後々何も起こらないのに今、こんな事をすれば又何かあるに決まっているのに…。
イアルはまだ理解できなっかた。本当の人間の温かさが…。